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<書評>琉球国王の肖像画「御後絵」とその展開 取り巻く世界、詳細に研究


<書評>琉球国王の肖像画「御後絵」とその展開 取り巻く世界、詳細に研究 琉球国王の肖像画「御後絵」とその展開 平川信幸著 思文閣出版・1万3200円
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 本書は、本年3月に米国から返還されて大きな話題となっている、琉球国王の肖像画「御後絵(おごえ)」を学術的に考察した研究書である。ただし、返還公表直前の2月末に出版されているため、米国で発見された御後絵の現物については触れられていない。

 御後絵は、王家の菩提寺(ぼだいじ)である円覚寺に納められた歴代琉球国王の肖像画である。沖縄戦後に行方不明となり、鎌倉芳太郎が大正時代に撮影したモノクロ写真の画像しか知られていなかったため、本書ではこの写真画像を基にして考察を進めている。

 著者が2018年に沖縄県立芸術大学に提出した博士論文『琉球の肖像画の研究』を一部改変したもので、研究目的、研究史、参考文献などが明示された、学術論文としての要件を備えた高度な内容である。御後絵の歴史、画像解釈だけでなく、北東アジアの帝王肖像画との比較研究、御後絵以外の琉球の肖像画の考察など、御後絵を取り巻く世界を幅広い視点で詳細に研究しており、現時点での御後絵研究の集大成と言っても過言ではない。琉球王国時代の歴史、文化、美術の研究者にとって必読の書であることは言うまでもないが、こうした分野に興味を持つ多くの人々に、一読をおすすめしたい内容である。

 ただ、御後絵の研究環境は近年大きく変化している。県立芸大と東京文化財研究所による共同研究によって御後絵のガラス乾板の高精細デジタルデータ化が行われ、これまでの画像に比べて細部の詳細が確認できるようになった。本書の口絵写真にはその成果が用いられているが、内容にはまだごく一部しか反映されていない。さらに、御後絵の現物も発見された。著者は本書の中で「御後絵が沖縄に返還された場合、(中略)モノクロームの写真では確認できなかった色彩の研究とあわせることで図像解釈の研究もより精緻になり、新たな成果が期待できる」と述べているが、著者による今後の新たな研究展開が大いに期待されるところである。

 (森達也・県立芸術大副学長)


 ひらかわ・のぶゆき 1976年、沖縄市生まれ。県立芸術大学博士課程後期修了、博士(芸術学)。専門は琉球・沖縄絵画史。県立博物館・美術館主任学芸員。主な共著は「すぐわかる沖縄の美術」「琉球船と首里・那覇を描いた絵画史料研究」など。