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目覚める場所選択 浦添市美術館「同時性」軸、5人表現 <「前夜―」展に寄せて>タイラジュン


目覚める場所選択 浦添市美術館「同時性」軸、5人表現 <「前夜―」展に寄せて>タイラジュン 新垣安雄氏の「怒りのオブジェ」1967年(写真撮影:高野大)
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 2021年に新垣安雄氏へ「二人展をしませんか?」と声を掛けたことが、今回の展覧会の起点である。バックボーンの異なる2人の作品が、「戦後」という繰り返されてきた言葉を揺さぶれないだろうかと考えていた。しかし、新型コロナウイルスの影響もあり、二人展は実現できなかった。

 時を経て23年に南城市美術館で新垣安雄展「預言者」が開催された。その会場で再度、二人展について相談し、ご快諾いただいた。帰宅途中にKIYOKAWA GALLERYで画家・秋山颯馬氏の個展を観賞した。不発弾の案内板を模した立体作品や、沖縄各所の「壁」の作品が展示されていた。新垣氏の展示を見てきたばかりだったからか、両氏の作品が共振しているような気がした。沖縄戦で父を亡くした反戦の美術家と、愛媛県出身で沖縄戦を知ろうと「壁」を追う表現者が、私の中で接近した。「グループ展に参加できませんか?」と、私は秋山氏に打診していた。

 旧知の写真家である伊波一志氏は10年近い沈黙を破って22年に活動を再開し、昨年「TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD2023」でグランプリを受賞した。同氏が糸満市摩文仁にある「平和の礎(いしじ)」を撮影していることは聞いていた。1220面に及ぶ刻銘板全てを撮影するという同氏の写真に対する執拗(しつよう)さに私は関心があり、今回の企画にも応答すると思い、参加をお願いした。

 写真家の石川竜一氏は「圧倒的にリアルな沖縄を切り取っている」という評価も目にするが、同氏の22年刊行の写真集「ZK」には、沖縄以外の場所が多く写されている。石川氏の写真は荒廃地を形成し、他者が見たいと思う世界の疑義をただす。開いた空間からは言葉が更新される。

 私に生じた同時性が「前夜―」という運動を実現させたのだが、その一方で私が見落としていることも多く見つかった。グラフィックを依頼した岸本一夫氏は私に「POWER」と描かれた画を手渡した。初めて見た私はネガティブな印象を持った。しかし、岸本氏が私に託したメッセージがあるのではないか、とアートディレクターの内間安彦氏と話し合い「原画を裏返してみたら?」というアイデアが出た。そうすると文字が読めなくなり、意味が消失した。「平和、平和って言い過ぎない方が良いと思う」と岸本氏は呟(つぶや)いた。

 「平和」という言葉を私はたくさん聞いてきた。何かを正しいと盲信する怖さを諭したのか? 私は「POWER」をそのまま差し出すことにした。岸本氏の純粋な思いを、正面から受け取れない私にこそ偏りがあったのかもしれない。

 今回展示される「怒りのオブジェ」は、新垣氏が25歳の時に制作した作品。「自分の魂を込め亜鉛板に怒りをたたきつけ、ツルハシで穴をあけ、ナタで切り裂き、怒りを爆発させました」とコメントがある。57年が経過し鋭利だった切り口は摩耗し、同氏も柔和な笑顔で当時を語っている。だからといって怒りの身ぶりは消えない。作品は存在する。それは氏の意思だ。

 私たちは今、それぞれの「前夜」にいる。目覚める場所は、私たちの意思で選択できる。

 (写真家)

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 新垣安雄氏が5月7日、逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。


 県内を拠点に活動する5人の作家によるグループ展「前夜―」が17日~26日、浦添市美術館で開かれる。展示は午前9時半~午後5時。20日は休館日。入場500円。問い合わせは電話090(7441)1352(タイラさん)。