水木しげるの代表作「ゲゲゲの鬼太郎」は、伊藤正美原作・辰巳恵洋作画による戦前の紙芝居「墓場奇太郎」を源流に持つ。水木は1950年代半ばに伊藤の許可を得て紙芝居「空手(家)鬼太郎」を描いたという。京極夏彦によれば、これは鬼太郎が沖縄で空手家の「ギチン」に弟子入りし、最後はその師匠と闘う話だったらしいが、作品は現存しない。
水木の連載マンガ「墓場の鬼太郎」では、「妖怪大戦争」の舞台となる鬼界ヶ島が沖縄の南端にあるという設定で、鬼太郎に助けを求める少年はクバがさらしきものをかぶっている。また「妖怪軍団」で鬼太郎を苦しめるアカマタは、なぜか沖縄ではなく南方妖怪の一員だった。
鬼太郎シリーズはこれまでに何度もテレビアニメ化され、リメークやオリジナル脚本も含めたその数は優に500話を超える。モノクロだった第1期にも鬼界ヶ島やアカマタが登場するほか、第57話『隠形魔法』(1969)では沖縄本島が舞台となり、若さを吸い取る「ユタ様」として村人が畏れる妖怪を、鬼太郎が退治する。安里屋ユンタが流れ、守礼之門が描かれるなど、沖縄の風景風物も配されていた。ただし原作では朝鮮が舞台で、村人が畏れるのもアリラン様だった。
第3期73話『シーサー登場!! 沖縄大決戦』(1987)では、キジムナーの訴えで沖縄に出掛けた鬼太郎とオヤジが、人間の畑を荒らす大魔神風の鎧武者との戦いを指導し、ねずみ男は沖縄にリゾート美女の夢を見る。また鬼太郎に挑んで敗れたシーサーが弟子入りを志願し、続く74話以降は鬼太郎ファミリーに加わって活躍する。第4期63話『メンソーレ!妖怪ホテル』(1997)は、ホテルの支配人にスポットを当てながら人間と妖怪の共生をうたい、シーサーとキジムナーが登場する。
第5期94話『沖縄の守り神シーサーの正体』(2009)で描かれたのは、アカマタが沖縄に寄せる思いやシーサーとの友情だった。当初は南方のジャングルにすむ妖怪として鬼太郎を襲うアカマタだが、シリーズを重ねる中で次第に友好的になり、その出自は南方から沖縄へと変化し、容姿も八重山の来訪神に加えて沖縄に生息する同名の蛇のイメージが加えられる。さらにアカマタは沖縄代表として妖怪四十七士にも選ばれていた。
劇場版も含め、半世紀以上続く鬼太郎シリーズをたどると、最初は外地・外縁として扱われていた沖縄が、次第に日本本土の枠組みの中へと移されてきたことが指摘できるだろう。それはアカマタやキジムナー、シーサーの性格付けや立ち位置の変化にも表れている。
(世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)