地冥界による侵略を受けたディストニア戦争で人間界を救ったのは、精霊界の支援で誕生した魔法少女たちだった。生き残った5人の魔法少女は「マジカル・ファイブ」と呼ばれて伝説となっている。『魔法少女特殊戦あすか』(2019)はそれから3年後の世界を描いたアニメだ。
地冥界との戦いで仲間を失い、両親も殺された魔法少女・あすかは、今なお悪夢に悩まされ続けている。それでも転校した高校で新しい友人ができ、平穏な生活が始まるかと思われた。だがテロ組織のバベル旅団が暗躍し、友だちが襲われたりさらわれて拷問を受けたりと、身近なところで事件が相次ぐ。結局あすかは陸上自衛隊の魔法戦特殊部隊に加わり、再び戦いの場に身を投じる。
そして第8話ではあすかたちが臨海学校で宜野湾に来ている。もちろん水着回だ。折しも自衛隊那覇駐屯地では、精霊界からタビラ将軍を迎えて貿易会議が開かれることになっていた。那覇駐屯地には人間界と精霊界を結ぶ世界に二つしかないブリッジの一つが通じており、核シェルターで厳重に防護されている。あすかは日米の特殊部隊とともにその警備にあたり、戦友だったアメリカのミア、ロシアのタマラとも再会する。一方、この機を狙うバベル旅団は那覇の繁華街で冥獣たちを暴れさせながら、駐屯地に攻撃を仕掛けた。ブリッジの存在が那覇を戦火に巻き込むのだ。
本作は変身美少女の戦隊モノに連なる作品だが、「プリキュア」シリーズのような、低年齢層向けの清純な物語ではない。現実世界の政治的・軍事的枠組みや大人たちの欲望が投影され、ちょいエロな描写や洗脳、拷問、腕の切断といった残酷な場面も多い。
また沖縄編には、交通事故で母親と自身の片脚を失った少女・与那嶺ちさとが登場する。父親は安酒をあおって彼女に暴力を振るい、風俗店で働かせようとする。バベル旅団はそんな父親から彼女を救って特殊な義足を与え、非合法な魔法少女へと仕立て上げる。実戦的な空手の研鑽(けんさん)を積んだちさとの能力に、以前から目をつけていたのだ。
ところで本シリーズの最終話には、ウクライナの地図が大きく映し出される場面があった。原作の同名コミックでは沖縄編の続きがウクライナ編となっており、ロシアがウクライナで冥獣の死体を使った魔法生物兵器の開発実験を極秘に行っていたという設定だ。ロシア政府はその事実を隠蔽(いんぺい)するために、バベル旅団を使ってウクライナに軍事侵攻する。まるで現在の状況を先取りしたようなエピソードだ。
(世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)