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薬師寺涼子の怪奇事件簿 主人公、ナパーム弾で島破壊 <アニメは沖縄の夢を見るか>(28)


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挿絵・吉川由季恵

 テレビアニメ『薬師寺涼子の怪奇事件簿』(2008)の主人公・涼子は、警視庁刑事部参事官という東大卒のキャリア官僚だ。27歳で階級は警視、学生時代から成績抜群で圧倒的な美貌とスタイルを誇り、射撃や格闘術にも秀でている。加えてアジア最大の警備会社JACESのオーナー令嬢でもあるという、まさに才・色・力・財を兼備したスーパー・ヒロインというわけだ。

 もちろん唯我独尊、傍若無人を絵に描いたような女王様で、謙虚さのかけらもない。おまけにJACESは警官の天下り先だから、上司たちも彼女を腫れ物のように扱う。そこでついたあだ名が「ドラよけお涼」、ドラキュラも涼子をよけて通るという意味だ。そして涼子がイケメンの部下・泉田警部補にほれているのに泉田は気づいていない、という設定が本シリーズのラブコメ風味となっている。

 そんな涼子=泉田コンビが沖縄の離島にやって来るのは、第7話『沖縄、神の島』でのことだ。冒頭では沖縄民謡「乙女百合の花」が流れ、島にはマングローブ樹林が広がっている。その一角に面した広大な敷地に、JACESのライバル会社であるNPPの田戸村会長が別荘を構えていた。別荘では環境活動家の行方不明者が相次いでいる。

 涼子たちが別荘を訪れた時も、門前では環境破壊に反対する島民たちが「よそ者は出ていけ」と抗議の声を上げていた。だがその中にいた若い女は、涼子が滞在するリゾートホテルで働いており、生活のためとはいえ矛盾した自分の状況を恥じている。彼女の父親も環境活動家だったが、田戸村の別荘で行方不明になったままだという。

 別荘に忍び込んだ涼子と泉田は、突然変異種の巨大なマングローブ妖樹に取り込まれた田戸村の姿を発見する。そして別荘の警備員たちは、落下して首に刺さったマングローブの胎生種子によってコントロールされていた。巨大な妖樹は別荘をのみ込み、さらには島全体を支配しようとしている。

 それを知った涼子は配下の美少女メイドをヘリコプターで出動させ、島の樹林にナパーム弾を何発も撃ち込んですべてを焼き払ってしまう。違法捜査や武器の無断使用といった涼子の暴走はいつものことだが、妖樹とともに破壊された島の自然は容易なことでは回復しないだろう。

 しかもベトナム戦争で悪名をはせたナパーム弾は、かつての沖縄戦や本土空襲でも使われ、多くの民間人が犠牲となっている。非人道的殺りく兵器としての批判もあり、現在は米軍ですら使用を否定する代物なのだから、いやはや何とも。

 (世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)