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魔法科高校の劣等生 「追憶編」で沖縄戦や基地投影 <アニメは沖縄の夢を見るか>(29)


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挿絵・吉川由季恵

 「魔法科高校の劣等生」シリーズは、学園が舞台となる超能力バトルものだ。第3次世界大戦を経た21世紀末、超能力は魔法技術として体系化され、優れた能力を持つ魔法師の養成が国を挙げて行われていた。その養成機関である魔法科大学付属第一高校に、司波達也・深雪の兄妹が入学する。4月生まれの達也に対し、深雪は翌年3月生まれの年子という設定だ。

 新入生総代を務めた深雪は優等の一科生だが、達也は魔法師としての一般能力が低く、劣等の二科生に甘んじている。しかし達也には一科生や上級生を凌駕(りょうが)する特殊な能力があり、どんな相手にも軽く勝ってしまうため、タイトルの「劣等生」という枷がほとんど意味を持たない。物語はいつも、強い兄に守られるかわいい妹というパターンへと回収され、近親相姦(そうかん)的な際どい兄妹愛が強調されている。

 ただし深雪はかつて達也に対してよそよそしい態度を取っていた。その関係が劇的に変化する経緯を描いたのが、『追憶編』と題された全3話の沖縄シリーズだ。中学に入ったばかりの夏、母に連れられた兄妹は沖縄の別宅に滞在した。この時達也は、深雪に絡んだ屈強な男を撃退し、また見学に訪れた国防軍の恩納基地でも、ボクシングや空手の猛者たちをひねり倒す。

 その直後、中国から大亜連合の艦隊が沖縄に侵攻し、内通者によるゲリラ戦が発生する。内通者は恩納基地内にもいて、深雪や母が銃撃を受けて瀕死(ひんし)の重傷を負ってしまう。達也は究極の再成魔法で二人を生き返らせると、深雪に手をかけた敵に怒りを爆発させ、敵艦隊を撃滅した。以来達也は「沖縄の悪魔」の名で大亜連合から恐れられ、深雪との間には相思相愛の強い絆が生まれる。

 沖縄の場面ではエメラルドグリーンの海にヤシの木や伊江島のタッチューが見え、現在と同じようにモノレールが走り、赤瓦の屋根にはシーサーが鎮座している。その一方で、かつて沖縄に駐留していた米兵の子孫が「レフト・ブラッド」と呼ばれ、差別されていた。大亜連合は沖縄海戦で慶良間周辺の制海権を握り、揚陸艇で本島に上陸するが、これは言うまでもなく1945年の米軍による沖縄侵攻をなぞったものだ。

 また4年後に再び沖縄を訪れた達也と深雪は、摩文仁を連想させる海の崖に建立された「沖縄海戦慰霊碑」に献花するが、その碑には南部戦跡の沖縄戦慰霊碑と同じく、戦没者の名前が刻まれていた。本作では中国の脅威という呪文で縫い合わせた沖縄の過去と現在が、右曲した時間軸の未来へと投影されている。

 (世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)