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スピリチュアルな沖縄 癒やしの島のイメージに <アニメは沖縄の夢を見るか>(32)


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挿絵・吉川由季恵

 『白い砂のアクアトープ』(2021)は、夢をあきらめて沖縄に逃げて来た元アイドルの風花が、南城市の小さな水族館を守ろうとする女子高生・くくると出会い、お互いに挫折や葛藤を抱えながら絆を強めてゆく物語だ。あてもなく砂浜で一夜を明かした風花は、地元の親切なお姉さんに声をかけられ、くくるの家に居候しながら水族館で働くことになる。まさしく絵に描いたような沖縄移住のパターンだ。

 一方、くくるは幼い頃に両親を亡くし、祖父母の家で育てられてきた。彼女が祖父の代理で館長を務めている水族館は、老朽化のために夏休みいっぱいでの閉館が決まっている。シリーズの前半はこの水族館を舞台に、スタッフやくくるの同級生、風花の後輩などが絡みながら毎回のエピソードが展開する。

 そしてそこにはスピリチュアルな要素が織り込まれていた。たとえばくくるたちは毎朝拝所(うがんじゅ)にグルクンの頭を供えて「まくとぅそーけー、なんくるないさ」と手を合わせる。近くにはいつもキジムナーがいるのだが、その姿は人間には見えていない。

 さらには水族館自体が不思議な体験をもたらす場所だ。風花は初めて訪れた時、水槽から波が押し寄せて海の中で魚たちに囲まれる幻想を体験する。一方、くくるにはこの世に生を受けることのなかった双子の姉がいたが、あるとき水槽の前でその姉や死んだ両親に会うことができた。

 また毎年夏にやって来る老人は、若くして死んだ兄と再会して涙する。海の見えるサトウキビ畑の一本道で兄が笑いながら振り向き、肩車をしてくれる。BGMに重なってかすかに聞こえる砲弾や機銃の音は、兄が沖縄戦で死んだことを暗示していた。

 『白い砂の―』と同じ時期に放送された『でーじミーツガール』(2021)は、1話90秒の超ショートアニメだ。こちらも夏休みの間、沖縄の女子高生・比嘉舞星(まいせ)が父のホテルを手伝っている。そこへ東京からアイドルのすずきいちろうが仕事や人間関係から逃げ出して来る。すると部屋が海になって魚が泳いだり、ガジュマルの巨木が屋根を突き破って空高く伸びたり、夕日がいつまでも沈まなかったりと、ホテルでは異常な現象が相次ぐ。

 この二つのアニメには、他にも台風や占い師/ユタといったよく似た設定が出てくる。どちらも類型化された沖縄からパーツを取り出して組み立てた作品ということだろう。いずれにせよ、スピリチュアルな沖縄という物語もまた、逃避や自分探しの場所、癒やしの島といった沖縄イメージの系譜に結びついている。

(世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)