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鉄の子カナヒル ハリウッドの技術生かす <アニメは沖縄の夢を見るか>(36)


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挿絵・吉川由季恵

 今回は県産アニメの締めくくりとして、読谷村を拠点にパペットアニメや特殊造形を手がける双子の比嘉ブラザーズに注目しよう。二人は巨匠ハリーハウゼンが特撮を担当した『恐竜100万年』(1966)などの影響を受け、高校卒業後に資金をためて渡米する。特撮スタジオを巡って自作を売り込み、仕事を請け負いながらハリウッドで7年間腕を磨いた。『ウィロー』(1988)ほかの特撮で知られるデヴィッド・アレンの門をたたいてその下でも働いている。

 そんな二人が帰沖後に取り組んだ代表作が、儀間比呂志の創作絵本を原作とする『鉄の子カナヒル』(2007)だ。鉄の身体(からだ)を持つ異形の子として生まれたカナヒルは、村を襲った鬼たちにさらわれる。鬼の親玉はカナヒルを料理して食べようとするが、おのも刀も歯が立たず、大鍋で煮ても手に負えない。それどころか火で熱したカナヒルをハンマーでたたくと、身体がどんどん大きくなって鬼たちを圧倒する……。

 ところどころにうちなーぐちを挟んだ儀間の原作は、ヤマトからの鉄の伝来や鉄製農具を広めた察度王の伝承を踏まえつつ、処女懐胎、醜いアヒルの子、鬼ケ島といった要素を取り込んでいる。さらには鉄の暴風と呼ばれた沖縄戦や米軍のスクラップを道具に変えた戦後の歴史を重ねることもできよう。

 子供のころから儀間作品に親しんでいた比嘉ブラザーズが『鉄の子カナヒル』を題材に選んだのは、物語に化けモノが出てくるからだという。ただし脚本作りにも加わった儀間のアドバイスを受け、原作版画のイメージをそのまま立体化するのではなく、二人で独自にキャラクターをデザインしている。

 鬼たちの容貌はハリウッドのモンスターを思わせ、カナヒルの幼なじみのチルーや犬を新たに登場させた。また母親が太陽神からカナヒルを授かる英祖王のような設定や、巨大魚にのみ込まれた旧約聖書のヨナを連想させる展開、母親の涙がカナヒルの身体に落ちるという『大魔神』(1966)風のシーンなども、原作にはない二人のアイデアだ。

 一部実景を含む約30分の尺は一般の映像作品なら短編だが、人形を少しずつ動かしてコマ撮りするパペットアニメでは大変な長さだ。撮影は16ミリフィルムで行い、それをデジタル編集したという。働いて製作費を稼ぎながらの作業で、完成までに9年を要した。その歳月にはパペットアニメへの深い愛着に加えて、ハリウッドで学んだ技術を沖縄独自の作品に生かしたいという、二人の強い意志が込められている。

 (世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)