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マーメイド・ラプソディ 恋とバトルと米軍と <アニメは沖縄の夢を見るか>(38)


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挿絵・吉川由季恵

 新留俊哉監督の『マーメイド・ラプソディ』(2016)は、人気ゲームを原作とするwebアニメ「モンスト」シリーズの夏のスペシャル版だ。ただし、本作のヒロインの容姿や特性からは、「マーメイド」という形容はちょっと思い浮かばないかもしれない。

 中学生の主人公・レンと葵、明、皆実の同級生モンストチーム男女4人は、夏休みに沖縄へとやって来る。皆実の父が、沖縄で開かれる米軍の空母エクセルシオの艦長引退パーティーに招待されたのだ。皆実の父は軍人か傭兵(ようへい)だったらしく、艦長とは古い戦友だという。

 沖縄の場面は那覇空港から始まって琉球音楽が流れ、葵のセリフ「来ちゃった」も含めてありがちなパターンだ。ANAの万座ビーチリゾートとおぼしきホテルに着いた一行は、さっそくビーチに出てはしゃぐ。そしてレンは海辺にたたずむ長い髪の少女に出会い、心を引かれる……絵に描いたようなボーイ・ミーツ・ガール、ひと夏の恋物語という展開だ。

 だが少女はレンに助けを求め、しかもその姿は不意に消えてしまう。国際通りで再び見かけた少女は、黒服の男たちに追われていた。黒服たちがスマホでバトルフィールドを展開し、兵士型モンスターを出現させたため、レンも相棒のモンスターである坂本龍馬を召喚して応戦する。スマホを使った召喚型バトルが、本シリーズの見せ場なのだ。少女は「明日の12時、首里城に来て」とレンを誘い、リラと名乗って再び姿を消した。

 那覇空港からビーチ、国際通り、そして首里城と、ここまでは定番の観光コースだが、物語の後半では沖に停泊する空母エクセルシオが舞台となる。リラはその空母の特別な一室に監禁され、モンスターを軍事利用するための実験材料として、拷問に等しい扱いを受けていた。彼女は思念を実体化させ、自らの分身を遠く離れた場所に出現させる能力を持っているのだ。レンは実験に反発する海軍中尉とともに、警備が手薄になる艦長の引退パーティー当夜を狙って、リラを救出しようとする。

 以前にこの連載で取り上げた『裏世界ピクニック』(2020)と同じく、本作は観光リゾートと米軍という二つのイメージで沖縄を描いている。その一方でモンスターを兵器利用するための実験というのは、次回取り上げる予定の『BLOOD+』(2005―06)にも通じるテーマだ。ただし、そこから基地問題に踏み込むわけではなく、事件は国防総省と研究機関の極秘プロジェクトを担当する大佐の個人的暴走によるもので、海軍も空母の艦長も知らなかったという都合のいいオチがつく。

 (世良利和・沖縄県立芸大芸術文化研究所共同研究員)