校庭真上の低空を飛ぶ米軍機のごう音、基地で働く母親の話、元米兵による殺人事件、現場の学校を封鎖して県警の立ち入りや犯人の引き渡しを拒み、被害者の遺体すら返そうとしない米軍――。テレビアニメ『BLOOD+』(2005―06)の沖縄編には、米軍統治時代から現在に至る基地問題が織り込まれていた。
「押井塾」出身の藤咲(ふじさく)淳一が監督した本作は、吸血ホラーアクション「BLOOD」シリーズの第2作にあたる。このシリーズは、「小夜(さや)」と呼ばれるセーラー服姿のヒロインが日本刀で人獣に立ち向かう、という設定を共有しているものの、各シリーズの間に直接的なつながりはない。
コザで商業高校に通う小夜は、居酒屋を営む元米兵・宮城(みやぐすく)ジョージの養女だ。事故で妻子を失ったジョージは、小夜の他にも二人の少年を養子として育てていた。ただし、小夜には1年前までの記憶しかなく、その秘密はジョージが従軍したベトナム戦争での凄惨(せいさん)な事件とつながっている。
ある日小夜は、忘れ物を取りに行った夜の学校で、鋭いかぎ爪を持つゾンビのような獣人に襲われた。パークアベニューでチェロを弾いていた謎の美青年に助けられるが、青年から口移しに血を飲まされたことで覚醒を経験し、自身の宿命と向き合うことになる。獣人は「翼手」と呼ばれる一種の吸血鬼だった。米軍は環境保護センターを装ったやんばるの極秘施設で人工的に翼手をつくり出す実験を行い、海兵隊とともに世界各地の紛争地帯へ送り込んでいた。このあたりの説明では実際の米軍の写真も使われている。
さらに米軍は翼手に関する軍事機密を守るために、やんばるの実験施設を自ら爆撃し、跡形もなく消し去ってしまう。沖縄が舞台となる1話から7話では、米軍の身勝手さが暴かれる一方で、その米軍を税金と地位協定で支援する日本政府の立場にまでは言及がない。
シリーズ第1作の劇場版『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(2000)では、ベトナム戦争当時の横田基地が舞台となり、B―52爆撃機がベトナムへと向かう場面で終わっていた。これに対して『BLOOD+』では、ベトナムの戦闘場面や覚醒中の小夜が暴走して村人を虐殺する場面が挿入され、世界各地の戦場と沖縄の関係にも踏み込んでいる。
そこから物語の舞台はベトナムへ、さらにヨーロッパやアメリカへと広がるのだが、今回は取り上げる余裕がない。ちなみにシリーズ第3作の劇場版『BLOOD―C The Last Dark』(2012)では、渋谷の街頭ビジョンに「さあ行こう 宮古島」という惹句(じゃっく)が出て、海辺を背景にビキニ姿の女が手を振る映像が流れていた。
(世良利和・沖縄県立芸大芸術文化研究所共同研究員)