宇宙嵐に巻き込まれて地球に落ちてきた、コアラと犬を混ぜたような生物兵器の試作品・スティッチが、ユウナという女の子と仲良くなり、二人でケンカもしながらさまざまなトラブルに立ち向かう―「スティッチ」第2シリーズ(2008―09)の舞台は架空のイザヨイ島だ。けれどもそこには赤瓦の古い家、空手にキジムナー、まぶい、おばぁ、パイナップル等々、沖縄のイメージがふんだんに盛り込まれ、三線の音色も随所に響く。
制作前の報道では竹富島が舞台とされていたので、イザヨイ島には八重山のイメージが投影されているのかもしれない。第1シリーズの「リロ&スティッチ」ではハワイのカウアイ島、第3シリーズの「スティッチ&アイ」では中国の黄山が舞台となっており、ディズニーが得意とする地域戦略と異国情緒・東洋趣味がうかがえる。いずれのシリーズでも、スティッチの相棒は「寂しさを抱えながらも元気に振る舞う女の子」という設定だが、ジェンダー・マーケティングにも抜かりはあるまい。
東京で行われた沖縄編の制作発表会には仲井真弘多県知事(当時)が同席し、スティッチ効果への期待を表明していた。その一方で、ディズニーによる文化的略奪、沖縄文化に対する誤解や偏った表象を警戒する崎原正志の指摘もあった。崎原の主張は、同時期に大嶺沙和が示した沖縄映画をめぐる分析とも重なるものだ。
三つのシーズンに分かれた「スティッチ」沖縄編の第1シーズンでは、BEGINがオープニング曲「イチャリバオハナ」を歌っていた。「オハナ」は「家族、身内」を意味するハワイの言葉であり、前のシリーズから持ち込まれたのだろう。作中ではユウナとスティッチに限らず、新たな仲間との絆を確かめる場面で、何度もこの言葉が使われる。
本作では他にも沖縄/非沖縄のイメージが無造作に組み合わされていた。そして次第に非沖縄的な色合いが強くなり、第2シーズンではすでに沖縄の離島を舞台とする意味合いは薄い。さらに第3シーズンに入ると、舞台はイザヨイ島から本島とおぼしき沖縄ニュータウンへと移る。そこには日本のどこにでもある都会の風景が広がっていた。
加えて、登場するキャラクターや描かれるテーマにもマンネリや他作品からのネタ借用が目立ち、沖縄と向き合う要素はほとんど見当たらない。この沖縄編は、当時のディズニー・ジャパン社長の沖縄暮らしが制作契機の一つとなったと聞くが、これでは当初の舞台設定自体が、沖縄ブームに乗った安易なものだったと言われても仕方なかろう。
(世良利和・沖縄県立芸大芸術文化研究所共同研究員)