那覇文化芸術劇場なはーとによる調査で、県内の文化芸術の担い手が不安定な契約のもとで、低収入やハラスメントに苦しんでいる実態が浮き彫りになっている。なはーとが13日に開いたハラスメント防止講習会で講師を務めたハラスメント対策アドバイザーの植松侑子さんに、芸術分野の現状を聞いた。
―芸術に関わる人から、どういうハラスメントの相談が多いのか。
「創作の現場はいろんな世代の人たちが関わるため、相談は多様だ」
「研修の機会が少ないからか、誰がどう考えても今の時代にやらないことがまだある。例えば他者の容姿を性的な意味でからかうようなことが多いと、アンケートにあった」
―創作の現場でハラスメントが生まれる要因は。
「チャンスがほしい人と、チャンスを与える権限を持つ人の数がアンバランスなのでハラスメントが起きる。キャスティング権限を持つ人に気に入られないと仕事がないかもしれないと思うから声を上げづらい。ハラスメントをする側もそれを分かっている」
―なぜ文化芸術に特化したハラスメント対策アドバイザーを始めたのか。
「元々は制作者としていろんな現場に入っていた。作品作りではコミュニケーションの問題がよく起きる。冷静な判断能力を失って作品が崩壊するケースが本当にあった。自分が関わる現場で、こういうことが起きないようにどうしたらいいのかと考えた。最初はガイドライン作りを始めて研修に至った」
―研修の難しさは。
「東京での事例だが、伝統芸能業界では研修自体が受け入れられていない。今までその業界のしきたりがある。新しい文化を入れること自体が伝統的な業界の慣習を壊したり、今までのやり方を否定したりしていると受け取られ、研修を入れるのが難しい」
「さまざまな人がいる中、自分たちが受けてきたハラスメントを再生産し続ける必要ないという、同じスタートラインに立つことが大事。いい作品を作るためと説明することで、同じ方向を向くことができる」
―指導とハラスメントの境界線は。
「創造の現場では、事前に同意をちゃんと取れているのかということがとても大事だ。だが『ノー』と言えない環境もある。同意は『イエス』をちゃんと本人の口から聞くこと」
―ハラスメントに当たることがあった場合はどこに相談すればいいか。
「フリーランス110番という厚労省がやってる事業では、弁護士が相談に乗ってくれる窓口がある。法務省の人権相談もある。文化庁では文化芸術業界の人たちの相談窓口もある。これはハラスメントかと思った時にこのような窓口で、現場とは関係のない人に相談してみるのもいい」
(田吹遥子)
うえまつ・ゆうこ 1981年愛媛県生まれ。フェスティバル/トーキョー制作統括などを経て、2015年から舞台芸術のアートマネジメント専門職の人材育成と雇用環境整備のための中間支援組織「特定非営利活動法人Explat」理事長。16年から合同会社syuz’gen代表社員。