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<書評>『沖縄エッセイスト・クラブ 作品集41』 27人の個性と思い伝わる


<書評>『沖縄エッセイスト・クラブ 作品集41』 27人の個性と思い伝わる 『沖縄エッセイスト・クラブ 作品集41』沖縄エッセイスト・クラブ著 新星出版・1500円
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 40年以上も続く沖縄エッセイスト・クラブの作品集で、多様な経歴の会員27人が思いをつづった随筆となっている。文学風、日記、旅行記、地誌や歴史、論文調の時評など、内容や文のスタイルに筆者の個性が感じられる。その中から数点を紹介したい。

 戦後沖縄の混乱した社会をたくましく生きてきた家族史を、愛惜の思いでつづった作品。若くして亡くなった父親似のずんぐりむっくりの指に、親子の絆を思うほのぼのとした話。経済活動や仕事の困難な遍歴を乗り越えてきた自分史を回顧する話。才気活発な3人の魔女達(母親、姉、妻)の様子が軽妙に描かれ、筆者がそのことを楽しそうにつづった作品。那覇新都心の建物、道路、モノレールの移り変わりを、自らが関わったエピソードを交えながら愛惜の念をもって書き残した作品。

 沖縄本島中部のある地域に定着してしまった地名の「ライカム」。琉球王朝時代から長い歴史のある地域が、戦後、米軍支配のもと、強制的に立ち退きされ、区割り変更された部落の変遷(へんせん)が忘れられつつある。筆者の「恥辱を帯びた地名」であるとの主張に、ハイカラな名前としての認識しかなかった己の浅学さを恥じた。

 日清戦争前後の琉日文化のせめぎ合う時代を、伊波普猷の関係した「尋常中学校ストライキ事件」を詳述しながら、当時の社会模様を彷彿(ほうふつ)させる作品。100年前の那覇の街を描写し、そこに「びんぼう詩人」だった山之口獏を闊歩(かっぽ)させながら、乾いたユーモアの秘密を探る作品。多重人格の数奇なエピソードを、症例報告調に紹介する随筆には驚いた。

 定年退職後に生きてきた人生への感慨をもって、好きな作家や作品に思いをはせながら秋深い東北を旅した紀行文も印象深い。

 いずれの作品も作者の思いが伝わり、その情熱に感心したり、思わずほくそ笑んだり、沖縄文化や歴史を垣間見たりと、楽しく読める随筆集になっている。

 (国吉和昌・豊見城中央病院神経内科医)

 沖縄エッセイスト・クラブ 1983年以降、年に1回、エッセイ集を発刊。今号には会員27人が寄稿した。まえがきには「会員が個性的なタイトルで綴(つづ)ったエッセイに、読後の余韻が続くことを期待したい」と記している。