prime

<書評>『沖縄レコード音楽史〈島うた〉の系譜学』 普及の変遷、丹念に描き出す


<書評>『沖縄レコード音楽史〈島うた〉の系譜学』 普及の変遷、丹念に描き出す 『沖縄レコード音楽史〈島うた〉の系譜学』高橋美樹著 ミネルヴァ書房・6050円
この記事を書いた人 Avatar photo 外部執筆者

 人類の長い歴史において、文字や絵や彫刻と異なり、音楽の「音」は記録ができなかった。それが19世紀末、エジソンによるフォノグラフ(蝋(ろう)管録音機)の発明で、初めて記録として残せるようになった。20世紀以降、音楽の発展はレコードの制作と共に進んできた。本書は沖縄音楽の記録としてのレコード制作に視点を定め、そこから沖縄音楽の歴史的展開の過程を描き出したものである。

 本書は以下の章構成となっている(各章が対象とする年代は評者が付した)。第1章:沖縄の音楽録音の黎明(1910年代~40年代)、第2章:田辺尚雄による沖縄音楽調査とレコード収集(10年代~30年代)、第3章:《安里屋ユンタ》の伝播と普及(スタジオ録音、30年代~80年代)、第4章:三隅治雄による『沖縄音楽総覧』制作(現地録音、60年代)、第5章:竹中労によるライブ盤制作(ライブ録音、70年代)、第6章:歌い継がれる《島唄》(カバー録音、90年代~2000年代)。

 この章立てから分かるように、各時代の沖縄音楽録音を巡る重要な事項に注目している。特に第1、2章における黎明期の沖縄民謡レコードの多様な発売状況、第3章《安里屋ユンタ》の全国規模での波及状況、第6章のTHE BOOM《島唄》カバー曲の世界への拡散状況など、これまでほとんど知られていない情報に驚かされる読者も多いだろう。いずれの章も、従来の沖縄音楽・芸能の研究者や愛好家が発掘してこなかった資料に基づく考察が展開されている。また全体を通じて、1910年代から1世紀以上に及ぶ沖縄音楽展開の歴史として読むこともできる。

 本書からはレコードという「音の記録」を通じて、沖縄音楽を巡る場がどのように変遷し、そこから生み出された「名曲」レコードが各時代の人々にどのような影響を与えてきたかが鮮やかに浮かび上がってくる。沖縄のレコード制作の歴史的展開に関心を持つ人だけでなく、沖縄音楽全般に関心のある人にぜひ読んでいただきたい。

 (久万田晋・沖縄県立芸術大教授)


 たかはし・みき 1967年生まれ。高知大教授、専門は民族音楽学、ポピュラー音楽研究。主な著書に「沖縄ポピュラー音楽史―知名定男の史的研究・楽曲分析を通して」「沖縄音楽が聴ける! 琉球古典音楽から民謡、歌劇まで」など。