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2024年、どうなる沖縄経済 専門家は「回復」「拡大」と予想 課題は?


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この記事を書いた人 Avatar photo 當山 幸都

 2023年の沖縄経済は、主軸の観光産業を中心に新型コロナウイルス禍からの経済回復が鮮明に見られた1年だった。一方で、人手不足や物価高が経済活動のさまざまな現場に影響を及ぼし、課題であり続けている。24年の景況の見通しについて、日本銀行那覇支店の小島亮太支店長、沖縄総合事務局の村上勝彦財務部長、りゅうぎん総合研究所の武田智夫常務、おきぎん経済研究所の垣花秀毅社長、海邦総研の中村重男常務の5氏に寄稿してもらった。 

<図の見方>

海外客流入増に期待 小島亮太氏(日本銀行那覇支店支店長)

小島亮太・日本銀行那覇支店支店長

 景気の拡大基調は続くとみている。観光については、コロナ禍前の5割前後にとどまっている海外客の流入増が期待される。個人消費は、雇用・所得環境が改善するもとで、緩やかな増加が見込まれる。設備投資も、コロナ禍で延期された投資の再開や人手不足に伴う省力化投資が増えるとみている。建設投資では、住宅投資が底堅く推移し、公共工事も防衛関連を中心に高水準が続くだろう。景気の拡大基調が続く中で、賃金と物価の好循環の実現が期待される。

 ただし、こうした見通しには不確実性が大きい。観光客の流入は内外の政治経済次第の面があるが、引き続き質の高い観光需要の喚起が求められる。物価高の継続は家計の実質所得の下押し圧力となるため、企業収益の拡大を賃上げの形で家計に分配することが重要だ。また、コロナ関連融資の本格的な返済が進む中で、経営が悪化した企業への目配りも必要だ。

 中長期的には、さまざまな観光関連の開発が予定される中で、沖縄の持続的成長に向けた明確なビジョンを持ち、各種インフラ整備を推進することが期待される。


回復は緩やかペース 村上勝彦氏(沖縄総合事務局財務部長)

村上勝彦・沖縄総合事務局財務部長

 2023年の県内経済は、物価高や人手不足による供給制約などの下振れ要因があったものの、経済活動正常化の流れから、個人消費や観光がけん引したほか、各種政策効果もあり、回復傾向にあった。

 24年は、景気を押し上げてきたコロナ禍明け後の需要は一巡し、緩やかなペースで回復は続くであろう。
 個人消費は、需要が一巡するほか、物価高の影響により節約志向が強まることも考えられ、回復は緩やかなペースになるであろう。

 観光は、増加基調で推移するであろう。特に、インバウンドは航空路線の増便等に応じて、段階的に増加するとみる。

 建設は、県内経済の回復を背景に民間投資を中心に堅調に推移するであろう。ただし「2024年問題」に対応することが急務となっており、影響も懸念される。

 雇用情勢は、企業の人手不足感は強く、改善状況が続くとみる。

 景気回復の継続には、一層のインバウンド需要回復のほか、構造的な賃上げと消費と投資の循環が必要であり、これらの実現のための「人への投資」や「生産性の向上」など供給力強化に向けた取り組みに注目したい。


拡大動き、後半強まる 武田智夫氏(りゅうぎん総合研究所常務)

武田智夫・りゅうぎん総合研究所常務

 2024年の県内経済は、引き続き緩やかに拡大する動きとなり、年後半には拡大の動きが強まるとみられる。

 消費関連は、回復の動きが強まり、年後半には緩やかに拡大するとみられる。県民の消費需要に観光客の需要も加わり、百貨店・スーパーの衣料品や身の回り品などの回復の動きが強まるほか、自動車販売など耐久消費財も半導体などの供給体制が整うことから回復が続くとみられる。

 建設関連は、回復の動きが強まり、年後半には緩やかに拡大するとみられる。マンション、ホテルといった民間投資に加え、貸家など住宅投資も活発になるとみられる。

 観光関連は、緩やかに拡大し、年後半は拡大の動きが強まるとみられる。国内観光客は19年を上回る水準で推移が継続し、外国人観光客も直行便の就航を背景に増加が続くとみられる。

 注目材料として海外情勢や賃上げ、物価動向、金融政策などが挙げられる。人材確保を背景に2年連続での賃上げが見込まれ、消費者物価は2%台での安定推移に移行する可能性が高い。これらの動きを受け金融政策は見直しの可能性が出てくると思われる。


設備投資も上向きに 垣花秀毅氏(おきぎん経済研究所社長)

垣花秀毅・おきぎん経済研究所社長

 2024年の県内経済は、人手不足や物価高の影響があるものの、観光関連など経済活動の活発化に伴って設備投資マインドも上向き、全体として回復が続くと予想される。

 観光関連は、国内客が全国旅行支援の終了後も堅調に推移しており、引き続き回復基調。外国客についてはコロナ前より直行便が減少しているため緩やかな回復ペース。入域観光客数は全体として2019年比でおおよそ9割の930万人程度と予想する。

 消費関連は、引き続き底堅い消費マインドの下で堅調に推移すると見込まれるが、物価上昇が雇用者報酬の上昇率を上回り続けた場合、鈍化する懸念もある。

 建設関連は、公共投資は堅調に推移し、民間投資は持ち直しの動きが強まると予想される。住宅投資も貸家や分譲住宅を中心に堅調に推移する見通し。
 雇用関連は、有効求人倍率が1倍を超える状況が続いており、景気回復に伴い改善傾向が続く見通し。

 人手不足や物価上昇を背景に賃金上昇圧力が強まる中で、企業側が生産性向上や適切な価格転嫁を実施し経済の好循環につなげることができれば、成長の年となる。


回復も人手不足懸念 中村重男氏(海邦総研常務)

中村重男・海邦総研常務

 2024年の県経済は観光の安定化にけん引され、緩やかに回復の道を歩んでいくだろう。ただし、国際情勢の不安定さや人手不足、個人消費の冷え込みなどへの不安が残る。

 観光はホテルなどの資本ストックが過剰で競争が激しいのに、労働力は不足しているというアンバランスな状況にある。沖縄観光の価値の維持・向上に向けた取り組みが、より重要な年になる。

 個人消費に関し、コロナ禍後の消費回復が一服した環境下では、物価水準の高さがより際立つことになる。あらゆる商品・サービスで価格転嫁が進む中、インフレ率を超える賃金引き上げが実現しない限り、財布のひもは一層固くなるだろう。

 建設は人手不足を理由に入札や受注を断念する事例が増えてきた。4月から建設業・運輸業にも残業上限規制が適用されるため、人繰りはこれまで以上に厳しくなると見込まれる。

 雇用に関しては、人手不足の解消に向けた視点が肝要になる。労働力が尻すぼみで減少していく現状に対し、求職者の多様なニーズに応え、労働参加を促す取り組みを継続していく必要がある。