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台湾をぐるりと一周「環島」を自転車で 世界的メーカー創業者も成功、ブームのきっかけに <サイクルの島へ 台湾の事例から>1


台湾をぐるりと一周「環島」を自転車で 世界的メーカー創業者も成功、ブームのきっかけに <サイクルの島へ 台湾の事例から>1 台湾一周に挑戦する県サイクリング協会の森兵次会長(右)=2019年2月(提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 當山 幸都

 1989年から続く「ツール・ド・おきなわ」をはじめ、県内でサイクルスポーツの普及に力を入れてきた第一人者、森兵次県サイクリング協会会長(82)は2018年と19年、自転車で台湾一周(約千キロ)に挑戦した。18年は日本政府から自転車活用推進功労者として表彰される日程が重なり終盤で離脱したが、77歳で迎えた二度目は10日間かけて完走した。

 台湾をぐるりと一周する旅は「環島(ホワンダオ)」と呼ばれる。一周の移動手段は鉄道や自動車、バイクとさまざまだが、近年注目されているのが自転車で走破する環島だ。

 07年には、台湾の世界的自転車メーカー「ジャイアント」の創業者、劉金標氏(89)が73歳で自転車一周に成功し、幅広い世代に環島ブームが広がるきっかけを生んだ。ジャイアントの自転車を沖縄に初めて導入したという森会長も劉氏に触発されて環島に挑戦した一人で「一周する満足感と達成感は大きい」と振り返る。

 ジャイアントはその後、サイクリングツアー専門の旅行会社「ジャイアント・アドベンチャー」の設立や、シェアサイクル事業「ユーバイク」の立ち上げなど、自転車を「新文化」として浸透させる施策を次々と打ち出す。

自転車の一周路「環島1号線」の案内標識が各地に設置される
=2023年7月、高雄市内

 こうした流れに呼応するように、行政による自転車道の環境整備も進んだ。15年には、台湾政府交通部主導で全長961キロの台湾一周路「環島1号線」が開通した。

 交通部によると、政府全体で22年までに整備された自転車路線は総計9354キロで、うち約5千キロは15年以降に手掛けられた。バイクが走る二輪車専用道路を使い自転車ルートを設けた場所も多い。

 海外のサイクリング客を呼び込むソフト面の戦略にも行政が力を入れる。

 交通部観光署(観光庁)によると、多数のサイクリストが一度に台湾を一周する「フォルモサ900」(11月)をはじめ、世界自転車デー(6月3日)に合わせた催しなど、一般からプロまでを想定したイベントを担う。担当者は「多くの人に自転車に乗って楽しんでもらうためには、特に目玉イベントが必要になる」と説明する。

 行政や民間それぞれの仕掛けもあって、正確な統計はないものの台湾を一周するサイクリストは年間数万人いるとみられている。森会長には、官民の歯車がかみ合ってサイクルツーリズムを推進する近年の台湾が「自転車文化が花開いた先進国」と映る。

 沖縄でも県内外のサイクリストから本島一周ルートの整備を望む声は多い。24年度には県や関係団体を交えた協議会が動き出す。森会長は「なかなか進まない状況があるが、行政とも話をしながら、少人数でも走る機会を増やし一周の満足感を広げていきたい」と期待を込めた。

(當山幸都)


 台湾の先進事例を踏まえ、沖縄のサイクルツーリズムの課題や可能性を探る。