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日本初、シロギスの完全陸上養殖 沖縄・伊平屋村で 「水温安定で成長早く」ブランド化も 広島の商社が手がける 


日本初、シロギスの完全陸上養殖 沖縄・伊平屋村で 「水温安定で成長早く」ブランド化も 広島の商社が手がける  稚魚の生育状況を確認するクラハシ経営戦略室の木口敬介さん=4月24日、伊平屋村の陸上養殖施設
この記事を書いた人 Avatar photo 玉寄 光太

 水産物加工などを手がける水産物総合商社「クラハシ」(広島県、天野文男社長)が伊平屋村で、日本初となるシロギスの完全陸上養殖事業を展開している。

 福山大(広島県)との共同で実現し、2023年11月に約1万尾を県外の市場に初出荷、23年度は約8万尾を生産した。24年度は15万尾を目標に増産に向けた体制を整備している。県内のホテルや飲食店への販売も予定。6次産業化や養殖技術の拡大などで沖縄経済への寄与を目指す。

 シロギスはキス科の海水魚。臭みが少ないことから昆布締めや、天ぷらなどの食材として人気が高い。水揚げ時期は3~10月で、冬場は高値で取引されている。一方、近年は海水温上昇などを背景に、漁獲量が減少傾向にある。

 クラハシの養殖技術は親魚から採卵し、ふ化させ飼育する。完全陸上養殖技術を確立させた福山大の技術支援を受け、18年に養殖の研究を本格的に開始。同年、マグロやモズクの買い付けで関係を築いてきた伊平屋村に協力を打診し、漁協が保有する県内最大規模の50トン水槽を10基借りて、養殖施設を建設した。

 同社によると、18年8月から、伊平屋と広島県の因島で、稚魚の生育状況を比較する観察実験を実施した結果、伊平屋養殖場が因島と比べて成長速度が2・3倍も速かったという。冬場気温が下がる県外と比べ、伊平屋は水質も良く成長しやすい水温で安定していることから、年間を通して出荷できる利点が大きかった。

 一方、夏場は水温が上がりすぎたことなどが原因で、稚魚が全滅したこともあった。福山大との研究を生かし、水温を管理する設備を設けることで生育を安定させた。現在、1年で15センチ以上成長させることができる。

 23年11月に県外市場に向けて約1万尾を初出荷。独自の規格に適合した一部のシロギスは「びんご姫」としてブランド化している。

 天野社長は「県内漁業者の選択肢を増やし、雇用や収入の安定につなげていきたい」と目標を見据えている。 

(玉寄光太)