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廃業回避へ価格転嫁 負担増、消費者の理解必要   


廃業回避へ価格転嫁 負担増、消費者の理解必要    政府備蓄米を保管している鮫川運送の倉庫=4月、福島県矢吹町
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 29日に成立した改正食料・農業・農村基本法は、食料の持続的な供給に向け、生産コストの価格転嫁を後押しすることを打ち出した。肥料や燃料などのコスト上昇分を価格に転嫁し切れていない生産者が多いとみられ、価格転嫁により廃業せず生産を継続できるようにする狙いがある。ただ農産物以外にも幅広い商品の値上がりで家計の負担は増しており、消費者の理解を得ることが必要になりそうだ。

「高い」65%

 共同通信が5月、東京都内などで買い物客ら約100人に実施した調査では、65%が農産物価格は「高い」と回答した。現在の価格水準で農業を継続できない場合の対策として妥当なのは「値上げ」との回答は24%にとどまり、「政府が補助金を出す」が49%と最も多かった。
 回答した60代女性は、値上げについて「ちゃんと説明があれば納得できる」と理解を示し、80代女性は「毎日の食べ物は減らせないので、高くなると困る」と訴えた。
 農林水産省は、農産物の適正な価格形成の仕組みをつくるため、生産や流通の関係者を集めて議論を進めている。法制化も視野に、各段階のコスト構造を把握して価格に反映できるようにすることを目指すが、幅広い関係者の合意を得ることは簡単ではなさそうだ。

備え

 今回の改正法は、緊急時だけでなく平時から食料安保の確保に対応する方針だ。食料の安定供給は、国内の農業生産の増大を基本としつつ、輸入と備蓄で対応する。
 運送業などを手がける福島県矢吹町の「鮫川運送」では、保冷機能がある倉庫で政府備蓄米を保管しており、コメの入った大量の袋が数メートルの高さに積まれている。他県にある倉庫を含め同社の備蓄量は計13万トンに上る。担当者は「食品なので気を使う。しっかりと保管したい」と話した。
 政府はコメの備蓄は100万トン程度で運用する考えで、多くを輸入に頼る小麦は民間企業が需要量の2・3カ月分を蓄える。食料危機時には生産や輸入、在庫量の把握が重要となるが、政府として食肉加工品などの製品在庫はつかめていない状況だ。

論点

 基本法の具体化に向け今国会に提出した食料供給困難事態対策法案は、民間在庫を把握するため、重要な食料の出荷や生産状況などの報告を求めることができるとの内容を盛り込んだ。
 農林中金総合研究所の平沢明彦理事研究員は、備蓄政策について「対策の前提となる肉や油を含む主要食料の民間在庫量を把握することは重要だ。備蓄品を使うタイミングや使用方法は今後の議論の論点となるだろう」と指摘する。