有料

教諭実刑 現場戸惑い 部活の危機管理 責任問う 那須雪崩事故判決


教諭実刑 現場戸惑い 部活の危機管理 責任問う 那須雪崩事故判決 栃木県教育委員会の再発防止策
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 栃木県那須町で2017年、高校山岳部員ら8人が死亡した雪崩事故で、宇都宮地裁は30日、教諭ら3人に実刑判決を言い渡した。事故は学校教育の一環である部活動中に起き、教諭の危機管理の在り方や責任が問われた。引率教員への異例の実刑判決に教育現場からは「厳しい」と戸惑う声も上がり、顧問の担い手減少など教育現場への影響も懸念される。識者は「判決を教訓に徹底した安全対策が求められる」と指摘する。

人災

 「学校教育活動時の集団行動における想定として相当に緊張感を欠いていた」。地裁判決は「雪崩を予測できなかった」などとして無罪を主張していた被告3人を厳しく批判した。
 訓練の責任者や部活動の顧問として3人が危険予測や情報共有、回避指示などをしなかった過失を認定。自然災害が原因ではあるが「相当に重い不注意による人災」と言い切った。
 遺族や遺族側弁護団は「亡くなった生徒らに落ち度はなかったことが示された」と判決を評価。被告3人に「事故の重大性を受け止め、心からの謝罪を求める」と述べた。

例外的

 学校部活動を巡り、生徒が死亡したり、けがを負ったりする事故は各地で後を絶たない。日本スポーツ振興センター(JSC)によると、05~22年度に全国の中学高校で、運動系部活動に関連して生徒が亡くなり見舞金が支払われた事例は235件、障害が残るけがは2641件だった。
 スポーツ事故に詳しい阿部新治郎弁護士は「部活動事故で教員の刑事責任を問うことは例外的だ」と指摘する。有罪になるのは「故意ではないかと疑われるほど悪質さが際立つ場合だ」という。
 中央大の谷井悟司准教授(刑事過失論)は、今回の実刑判決について、3人が部活動の引率者として責任ある立場だったことから「教育の一環で、生徒らの安全確保が強く求められていたことが有罪認定や量刑判断で考慮された」と分析する。

萎縮

 栃木県教育委員会は雪崩事故後、県立学校で全ての登山活動の安全性をチェックするほか、23年度から山岳ガイド資格者を各高校に配置し、登山に帯同させるなどの安全対策を進めた。ただ、部員減少や経験豊富な教員の不足で休廃部が相次ぎ、17年度に県内の高校に22校あった登山部は、23年度は5校まで減った。
 日本女子大の坂田仰教授(教育法制)は、多数の死傷者が出た雪崩事故で教諭の刑事責任が問われ「事故を恐れて萎縮し熱心な指導に消極的になるのは避けられない」と指摘する。ある公立高校の校長も「安全配慮にはとても気を使うが、自然相手の危機管理は難しい。われわれは教育のプロだが、危機管理のプロではない」と打ち明ける。
 刑事罰が科されることへの懸念から、顧問の希望者が減少する担い手不足も懸念される。