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人材確保に広がる不安 運輸や医療・介護2%台   中小賃上げ低調


人材確保に広がる不安 運輸や医療・介護2%台   中小賃上げ低調 中小企業の業種別賃上げ率
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 日本商工会議所がまとめた2024年春闘の結果は、中小企業の賃上げ率が大手ほど伸びなかった実態を改めて示した。さらに中小の業種別の格差も浮かび、運輸や医療は2%台と低調。給与アップの難しさから人材確保に不安が広がる。物価高により実質賃金が25カ月連続で減る中、家計の負担感にも濃淡が生じていることがうかがえる。 (1面に関連)

続く難局

 医療・介護・看護業は賃上げ率が2・19%にとどまった。ある福祉施設の関係者は「公定価格があり、事業所単位の上げ下げが難しい業態だ」と語った。サービス業には料金を引き上げ、賃上げの原資にする流れがあるが「他の産業と比べて人材を確保する力があるかといえば、心配だ」と漏らした。
 運輸業は2・52%。多くを占める零細事業者は「交渉力が弱く、燃料費や車両費が高騰する中でも運賃の価格転嫁が進まない」(全日本トラック協会の担当者)。利益は乏しいが、賃上げしないとドライバーが辞めてしまうとして、経営体力と人材確保をてんびんにかける難局が続く。
 帝国データバンクの調べでは人手不足による倒産は23年度、313件と過去最多を更新した。建設と物流が半数近くを占める。両業種は価格転嫁が全業種平均より進んでいないとの分析だ。
 原材料費などの上昇分を、製品やサービスの料金に上乗せするのが価格転嫁だが、消費者にそっぽを向かれかねず、その難しさはものづくりの現場にも共通する。
 「電気代、人件費と上がる中で製品価格に反映できない」(関東地方の製造業)と嘆く声が、今回の日商調査にも並んでいた。価格転嫁ができなければ、賃上げの継続は難しい。

反省点

 連合によると大企業を含めた24年春闘の平均賃上げ率は5%台と、33年ぶりの高さになる見通しだ。だが内容はまだら模様となる。
 機械や自動車など製造業の産業別労働組合「JAM」によると、組合員数100人未満の企業では平均妥結額が1万230円だった。一方、3千人以上の企業では1万9924円と、差は2倍近くあった。
 大手も中小も一様に基本給が底上げされなかったベースアップ(ベア)ゼロの長い時代を経て、ようやく高額回答は続出した。だが格差拡大を許したことが「今春闘の反省点」とJAM幹部は振り返る。
 第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、社会保障負担が近年重くなっており「雇用者報酬の伸びほどには可処分所得が増えていない」と指摘。「賃金と物価の好循環は起こりにくい」と分析している。