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攻撃に危機感、体制整備 「通信の秘密」侵害を懸念


攻撃に危機感、体制整備 「通信の秘密」侵害を懸念 能動的サイバー防御の主な課題
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 サイバー攻撃を受ける前に対処する「能動的サイバー防御」の法制化に向けた論議が本格化した。政府と自民党は、国の機関や重要インフラへの攻撃に危機感を抱き、欧米並みの体制整備へ旗を振る。一方、攻撃情報の監視を強化すれば、憲法21条が保障する「通信の秘密」を侵害するとの懸念が根強く、整合性を問われるのは必至だ。政府の有識者会議や野党からも慎重な議論を求める声が上がっており、課題は山積する。
 「わが国の安全保障をサイバー空間からも確実なものにするため、お力添えをお願いする」。岸田文雄首相は7日の有識者会議の初会合で訴えた。担当する河野太郎デジタル相は「数カ月以内でなるべく早く成果を報告いただき、法案を取りまとめたい」と表明。秋の臨時国会への法案提出を見据え作業を急ぐ。
 背景にあるのは、相次ぐサイバー攻撃だ。昨年7月に名古屋港のシステムが攻撃され、コンテナの搬出入作業が停止。今年2月には中国のサイバー攻撃による外務省の公電情報漏えいが判明した。閣僚の一人は「対応は待ったなしだ」と語る。
 国境を越えたサイバー攻撃が増える中、米国は日本に対処力の向上を求めているとされる。自民党経済安全保障推進本部の甘利明本部長は「日本はまだまだマイナーリーグ。国際標準が備わっていない」と強調。官邸筋は「各国から提供された機密情報が日本から漏れることがあってはならない」と焦りを募らせる。
 最大の論点は、通信の秘密との関係だ。政府が市民の通信情報を監視・収集した場合、憲法違反との指摘が出かねない。政府関係者によると、法解釈を担う内閣法制局は昨年来、違憲とならないような解釈の整理を水面下で続けてきた。
 内閣法制局の近藤正春長官は2月の衆院予算委員会で「通信の秘密も、憲法12条、13条の『公共の福祉』の観点から、やむを得ない限度で一定の制約に服すべき場合がある」と答弁。国の安全やインフラ保護が公共の福祉に当たるならば、通信の秘密も制限され得るとの認識を示した形だ。
 「このまま進めると、憲法や法律に抵触する可能性が生じる」「国家がどのような目的で、どの程度の通信の秘密を制限するのか」。7日の有識者会議では、出席者から厳しい意見が続いた。
 会議後、東大大学院の宍戸常寿教授は記者団に「第三者機関などによる実効的な監視の仕組みや、国会報告を含めた適切なガバナンスが必要だ」と言及。
 立憲民主党の泉健太代表も7日の記者会見で「国会の関与や民主的統制が担保されるかという観点から対処したい」とくぎを刺した。
 この他、攻撃の無害化に必要なサーバーへの侵入やウイルス作成が、不正アクセス禁止法や刑法の不正指令電磁的記録作成罪に抵触しないかどうかも論点となる。政府筋は「法整備には世論の反発が予想される。慎重に進めなければならない」と述べた。