プロバスケB124チーム中、入場料収入が断トツの琉球ゴールデンキングス。その好調さを支える強固な収入基盤は、入場料だけでなく、物販も関連している。2022年度のグッズなどの販売収入は3億3292万円とB1全チームで首位。平均額の3倍以上で、2位の川崎ブレイブサンダース(2億2776万円)と比べても約1・5倍多い。
琉球ゴールデンキングスを運営する沖縄バスケットボールによると、同社が年間に販売するグッズは色違いを含めて2万点。Bリーグ内で圧倒的な種類の多さだ。4人の「グッズチーム」が常に新商品の開発を続けている。
キングスのグッズにはある特徴がある。多くのプロスポーツチームは、ファンが観戦時に着用するユニホームなどを主力商品として扱うが、キングス戦の観客の多くは比較的自由な格好をしている。「どんな服を着てもいいのがキングス文化」と沖縄バスケットボールの白木享社長は説明する。そして続ける。「われわれのグッズは試合観戦のためではなく、日常生活のためのものが圧倒的に多い」。この“カジュアル戦略”こそが消費を掘り起こしてきた。
沖縄アリーナ内のショップを見渡すとさまざまな商品群のラインナップにその戦略が見て取れる。
定番のTシャツや帽子だけなく、スカジャンやデニムジャケット、果てはバスケチームなのに流行の“ゆるダボ”サイズの「ホッケーシャツ」まである。Bリーグのチームとしては、人気セレクトショップのBEAMS(ビームス)と初のコラボとなった刺しゅうシャツなど、高価格帯の商品もあれば、県民が日常使いできるかりゆしウエアや名刺入れといった小物も豊富だ。普段の生活で「さりげなくキングスをそばに感じられる」商品をそろえている。
鍵は購買意欲が特に高い若年女性客だ。バスケットボールは日本の競技人口の中ではサッカーに次ぐ2位の60万人おり、うち4割を女性が占める。競技人口も比較的若く、マーケティングでも有望な競技とされる。
キングスの試合の観戦客にもそれは反映され、6~7割を女性が占める。女性客の方が男性客よりグッズを買う傾向は高い。ある女性ファンは「次から次にかわいいアイテムが出るから、買うのが追い付かない」と苦笑いを浮かべた。
もちろん人気の土台となるのはチーム自体の「強さ」にある。今や西地区の雄としての存在感を確固たるものとしたが、白木社長は同時に「もし負けたとしても次は絶対に勝つ、一緒に勝ちに行くと思える試合を心掛けている」と話す。
チームの特徴は「分厚いセカンドユニット」。先発のスターティングファイブに頼るのではなく、ベンチスタートのメンバーでも勝負できる体制だ。同時に地元出身の「スター選手」がチーム全体をまとめ上げることで県民の支持を得てきた。
収入面の目下の課題は「スポンサー収入」が他のチームより劣ること。県外勢はトヨタ自動車やミクシィなど巨大企業がスポンサーに付いているチームもあり、島しょ県沖縄ではカバーが難しい事情もある。
ただ、そうした不利は必ずしもマイナスではないと白木社長は強調する。「沖縄という小さな島のチームでも優勝できるという希望、名だたる大手のスポンサー企業を相手に沖縄のベンチャー企業が渡り合っている驚きが、沖縄を元気にしている」。その「共感」はチームへの支持につながるという。
白木社長は22年、沖縄バスケットボール創業者である木村達郎氏から経営を引き継いだ。デジタルマーケティングやシステム開発支援などを手掛けるプロトソリューション(宜野湾市)の社長も務めてきた白木氏は経営者仲間として交流もあったことから、木村氏から打診され、引き受けた。
2人の経営者をそばで見てきたコアメンバーの一人はこう評する。「木村さんは起業家タイプ、白木さんは事業家タイプ」。白木氏も自らの職責をこう説明する。「0から1を生み出したのは木村さん。これは『天才木村』にしかできなかった。自分の仕事はこの1を3に、そして10に育てることだ」。第二の成長期に向け、白木氏の強みであるDXなどの推進で「事業の安定化と拡大」を目指す。
(島袋良太)