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先達に学ぶ厳しさと喜び 新里えり子(農業者・農福連携技術支援者) <仕事の余白>


先達に学ぶ厳しさと喜び 新里えり子(農業者・農福連携技術支援者) <仕事の余白>  新里えり子
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 『改訂 沖縄農家便覧』(我謝榮彦著)という貴重な資料がある。第1版は昭和3年(1928年)、9回改訂されている。二十四節気の農業行事を中心に栽培方法、土壌、気候、土木作業が詳細に記録されており、おなじみの島野菜のみならず、リスボンレモンやコールラビー、リーキ等の意外な品目が当時から栽培され、沖縄の農業がいかに多彩にあふれていたかが分かる興味深い資料である。読むほどに先人方に尊敬の念を抱き頭が下がる。

 農業を志してから、私にも農業が全く楽しめず辛いだけの時期があった。大型台風が狼藉(ろうぜき)の限りを尽くし、愛車の軽トラックは壊れ、軍資金も底を突き、少しでも取り返そうと必死に行動するが全てがうまく行かない。そんな時にくじけず、前に進むことができたのは家族の支えと、先輩農業者や農業関係機関のサポートのおかげである。

 先輩農業者の畑に習いに行くと、土づくりから栽培、売り方の工夫等、様々なノウハウを惜しみなく提供してくださり、時には農業機械や資材を貸してくださる先輩方もいらっしゃる。他業種ではなかなかない農業の素晴らしい一面だと私は思う。ある時、キャベツ栽培の達人先輩が「農業は毎年1年生」ということを話してくれた。苦労し経験を積んできた先輩方の謙虚さと懐の広さに常に頭が下がる。

 「百川学海(ひゃくせんがっかい)」との言葉がある。農業への思い熱く、厳しさ辛さを楽しみ喜びへと変えてきた先輩農業者を目指し、農業という素晴らしい職業を次の世代につなげていける農業者でありたい。

新里 えり子 しんざと・えりこ

 農業者。うるま市在住。石垣市出身。大学卒業後、IT系会社を経て、就農を目指し県立農業大学校で学ぶ。卒業と同時に新規就農。沖縄在来種山葡萄のワイン「涙(なだ)」の原料やその他果樹を栽培。障がい者の就労・雇用の機会を支援する農福連携技術支援者としても活動中。