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琉球海運「両生類経営」シフト 陸送・倉庫に船を超す投資、県外見据え「拡大の時代」へ<Who強者How強者 沖縄企業力を探る>6


琉球海運「両生類経営」シフト 陸送・倉庫に船を超す投資、県外見据え「拡大の時代」へ<Who強者How強者 沖縄企業力を探る>6 選ばれる「総合物流企業」になると会社が目指す姿について語る比嘉茂社長=3日、那覇市西(喜瀬守昭撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 島袋 良太

 2006年、貨物RORO船(ロールオン・ロールオフ型貨物船)「わかなつ」を投入した琉球海運は、不採算部門だった旅客事業から撤退し、貨物事業に特化する16年間にわたる「構造改革」がようやく完了した。数億円規模の赤字やわずかな黒字を行き来していた決算は、10年に節目となる10億円の経常利益を確保した。1990~2000年の「過去(更生計画)を清算する時代」、10年ごろまでの「改革と蓄積の時代」を経て、「拡大の時代」へとかじを切った。

 第1次中期計画時(09~11年度)に17・5%だった自己資本比率は、第2次計画時(12~14年度)で30%台まで回復。次第に「打って出る戦略」が取れるようになった。14年に貨物RORO船を5隻から6隻へ、21年には7隻体制へと拡大した。

 強化したのは隻数だけではない。14年に42年ぶりの台湾航路を再開した。国境をまたぐ「外航船」は事業の変動幅や規制も大きく、地方の海運会社にはリスクが高い。だが九州―沖縄本島―先島を結ぶ既存航路があったため、この航路を延長する形で導入でき、国内で初めてとなる「内外航併用船」を運航した。これにより内航部門で一定の貨物量を担保してリスクヘッジができ、同時に外航船を運航する実績を蓄積できる。今後見据えるのは、成長著しいアジアへの航路拡大だ。

 今後の成長を支えるもう一つの鍵は、倉庫事業や各種陸送も手掛ける“両生類経営”の本格化だ。旅客事業は「不得意」で撤退したが、物流という枠組みでは陸上にもウイングを広げた。

 第1次中期計画時に1億円未満だった陸上施設への設備投資額は、第2次(12~14年度)には14億円に増え、第5次計画(21~23年度)時には148億円にまで増えた。

 宮城茂会長は「物流はサプライチェーンがあり、海運は一部を占めているに過ぎない。全体の流れの中に多くのチャンスがある」と見通す。

 特に積極的に投資したのは倉庫事業だ。現在は県内5カ所、福岡と佐賀の県外2カ所、計七つの物流センターを運営する。10年以降の投資額は陸上施設が304億円、船舶が278億円。陸上が海運事業を上回る規模で推移している。

昨年、豊見城市に完成した県内最大級の総合物流センター「琉球ロジスティクスセンター」(琉球海運提供)

 グループ14社で海運、陸送、倉庫事業などを一手に担うことで、集配送のスケジュール組みやロジスティックを柔軟にした。集荷、保管、海上輸送、陸上輸送までの「ドア・トゥ・ドア」輸送を展開できる体制を強みに、海上の取扱貨物量も増える好循環に入った。

 今年6月に就任し、本年度からの第6次中期計画のかじ取りを担う比嘉茂社長は「グループ間のシナジーを追求し、選ばれる『総合物流企業』になる」と会社が目指す姿を説明する。

 今着目するのは、トラックドライバーの残業時間規制強化や、それに伴い人手不足が懸念される「2024年問題」の解決策の一つとして、船舶輸送や鉄道輸送への転換が進む「モーダルシフト」だ。単純計算だが、琉海が保有するRORO船は約15人の乗員数で、トラック約千人分の貨物を輸送できる。本土のトラック運転手の人手不足は「千載一遇のチャンス」(宮城茂会長)だ。

 この動きをにらみ、今年7月には東京―大阪航路を週2便から週3便へと増便した。同時期に導入した新RORO船「かりゆしⅡ」も従来から3割ほど大型化。これを機に航路再編で九州を経由する航路を新設し、稼働率の向上を図っている。昨年12月には大阪南港に約5千坪(約1万6500平方メートル)の用地を取得しており、輸送車両や陸揚げした貨物の一時保管場所として活用し、関西でも足場を築く計画だ。

 離島県の物流を担う「インフラ企業」。本島と離島を結ぶ小型貨物船事業は、製糖や畜産などの産業や生活物資の供給を支えており、たとえ赤字を出しても「不採算」と簡単に切り捨てることはできない。島々の物流網を維持する揺るがない基盤を築くためにも、本土市場に打って出る。

 (島袋良太)(毎週金曜・第3経済面掲載)