12月末、外が暗くなり始めた午後6時過ぎ。本島中部の小学校の教室で、男性教師=30代=がテストの採点を始めた。終業時間から既に1時間15分超過している。「提出物の確認や明日の授業準備など、自分の学級運営に関わる仕事はこの時間からしかできない」。幼い子がいるため、午後8時ごろには帰宅する。仕事の持ち帰りは「当たり前」と苦笑いする。「それでも間に合わない。土日のいずれかも出勤している。自分の生活を犠牲にしないとできない」。疲れが色濃くにじんだ表情で、採点を進めた。
■過労死ライン
県内のほとんどの学校で教師の就業時間は午前8時15分から午後4時45分までとなっている。市町村教委はタイムカードを導入するなどして勤務実態を把握し、長時間労働の改善につなげようとしているが、「業務量が軽減されなければ改善は無理」と男性は憤る。
「過労死ラインを越えても、医者と面談して、医学的なアドバイスを受けるだけで根本的な解決にならない」。県内の小学校に勤務する女性=30代=はこれまでに数回、厚労省が過労死ラインの一つの目安としている月80時間以上の残業があった。そのたびに教委から産業医面談を促されるが「断っている。業務が減るわけじゃないから面談時間がもったいない」と期待していない。
■自己犠牲
女性は高学年の担任。午前6時半に出勤して授業準備をする。児童の登校が始まる午前7時45分には新型コロナウイルス感染防止のため、児童を次々と検温する。自分で上手に測れない子も多く、時間がかかる。
高学年とはいえまだ小学生。活発でけがをしたり、友達と口論したりでなかなか目が離せない。まだ語彙(ごい)が少なく自分の気持ちを表現するのに時間がかかる。授業中のトラブルや気になったことを確認しようにも、休み時間だけでは気持ちを十分に聞き出せない。授業の合間を宿題の確認に充てたいが、手を付けられず、給食を数分で食べ終えて時間をつくっている。
下校は午後4時。会議などを終えた後は保護者対応に追われる。日中に目を通した児童らの連絡帳には、保護者からのメッセージが記されていることが多い。内容によっては電話で返答する必要もあり、保護者の帰宅後に電話をすることもざらだ。その後やっと、翌日の授業準備や教材研究に着手する。午後9時ごろまでは学校で、残りは自宅で続ける。
「検温や徴収金の管理など、教員でなくてもできる仕事がいくつもある。その時間を全部子どもに使いたい。当たり前のことだと思うが、それができない」。肩を落としたまま、暗い教室に戻っていった。 (嘉数陽)
先生の心が折れたとき
精神疾患による教師の病気休職者が増え続けている。文部科学省の調査によると2021年度、全国の公立小中高・特別支援学校で過去最多の5897人。沖縄も過去10年間で最多の199人、在職者数に占める割合は全国で最も高い1・29%だった。心を病んだ理由はそれぞれだが、当事者の多くは要因の一つに、就業時間内に終えられるはずがない業務量を指摘する。休職者の増加は他の教員の業務負担につながり、さらに休職者が出る連鎖が起きかねない。心が折れてしまうほど多忙な教員の1日のスケジュールを取材した。