prime

たった一人の卒業 仲盛康治(仙台育英学園沖縄高・沖縄大非常勤講師)<未来へいっぽにほ>


たった一人の卒業 仲盛康治(仙台育英学園沖縄高・沖縄大非常勤講師)<未来へいっぽにほ> 仲盛康治(仙台育英学園沖縄高・沖縄大非常勤講師)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 2019年2月ごろ、夜間中学校から依頼文が届きました。「戦後の混乱期に学校に通えず、学び直したおばあちゃんが卒業する。大病を患い言葉を話すことが困難だが、貴校で卒業証書を渡してほしい」という内容でした。生徒や職員に相談したところ、生徒の卒業式前日を「たった一人の卒業式」と名付け、卒業生を中心とした実行委員会が式を企画することになりました。

 式当日は手作りの横断幕で迎え、おばあちゃんは全校生徒の前で卒業証書を受け取りました。生徒の進行で式は進み、卒業の歌や半生を振り返るスライドショーの上映もありました。娘さんが「こんなにすてきな卒業式を企画してくれてありがとう」と感謝の気持ちを代弁し、おばあちゃんの口元にマイクを近づけると、「あ・り・が・と・う」と声を絞り出してあいさつしてくれました。「母からの感謝の言葉です。一生懸命練習しました」。娘さんは深々とおじぎをしました。

 おばあちゃんは生徒たちに、「困難を乗り越え挑戦し続ける尊さ」を教えてくれました。大きな拍手が湧き、皆の柔らかな表情やたたずまいが学校の温かい雰囲気をつくっていました。「私たちの卒業式どうでしたか?」と質問する実行委員長に対し、おばあちゃんは笑顔でOKサインを出しました。

 「自分たちの卒業式より感動が大きいかもしれない」と、涙ながらにおばあちゃんと生徒たちが抱き合う姿が、今でも思い出されます。

 その生徒たちは来年、20歳になります。二十歳を祝う日には、きっとこの話題で盛り上がることでしょう。いろいろ言われているけどやっぱり、教員って楽しいよ。