数年前のことである。「このおにぎり、もう1個もらえる?」。私の方に近寄って来る生徒がいた。塾に来る中学生4人組の1人、Aさんだ。おにぎりとパンが2~3個残っていたので、彼女に全部持たせた。「えっ、いいの?」。表情は明るく、屈託がない。度々そのようなことがあったので、気になっていた生徒の一人だった。
山城塾は無料塾として2017年4月から始めた。この塾は子どもの居場所としても利用される。仲間とおしゃべりをして、おにぎりやパン、ラーメンなど、軽食を取れる場所でもある。彼女たちは補導歴があり、行くあてがない時は塾に来る。
ある日、たくさん残ったおにぎりやパンを彼女の家に届けたことがあった。ドアを開けると、そこに立っていたのは体の不自由なお年寄りと、彼女だった。私はハッとして、あまり話すことができないまま帰った。後で分かったことだが、彼女は小学校の高学年から祖母と2人で生活をしていた。明るさの裏にある厳しい暮らしを、誰が想像できたであろうか。現実をまざまざと見せつけられた出来事だった。
沖縄の貧困問題は深刻である。相対的貧困率は全国平均の2.2倍、1人当たりの県民所得も全国最下位(内閣府ホームページより)だ。
貧困の連鎖を教育で断ち切るという思いで無料塾を始めたが、子どもの貧困と非行、不登校、ヤングケアラーなど、課題は山積している。
人は幸せになるため、人生を楽しむためにこの世に生まれてきたと思う。目の前の子どもたちが、現在も将来も幸せであるように、少しでも周りの大人たちが手助けをしていければと思う。