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やましろー、いるかー! 山城勝秀、山城塾(無料塾)代表<未来へいっぽにほ>


やましろー、いるかー! 山城勝秀、山城塾(無料塾)代表<未来へいっぽにほ> 山城 勝秀
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 塾の西日の差す入り口がガラッと勢いよく開き、「やましろー、いるかー!」と大きな声がした。真っ赤な口紅を塗り、きつめのアイシャドー、ピアス、ミニスカート、ハンドバッグと自分ができる精いっぱいのおしゃれをした女の子が立っていた。「よく来たねー、中に入りなさい」。声をかけると椅子にドカッと座り携帯をいじる。彼女の家庭はひとり親で、夜は一人で過ごすことが多い。経済的には厳しいがおしゃれには結構お金をかけている。「何か食べる物あるー?」と言うのでパンやおにぎりをあげた。食べ終わると落ち着くので、その一瞬の隙を見て漢字のプリント1枚を配る。小6の漢字の「読み」の問題。「無理、無理」と言って半分も解かず携帯をいじる。それを繰り返す日が続く。

 彼女は中2の春休みに歓楽街で働き補導された。友人に誘われこの塾に通い始めたが、私は服装や携帯のことには触れず「調子はどう?」「楽しいことあった?」と言葉をかけ続けた。次第に表情が穏やかになり会話も増え問題も解くようになった。そんなある日「お前ら、早く気付けよ!」と言って、不真面目な態度の仲間に勉強するよう注意し始めたのである。

 「変わりたい。変わろう」。そう思ったのだろう。そのあと彼女が変わるのに時間はかからなかった。生活態度も良くなり合唱コンクールも参加した。あの服装は見られなくなり、無事卒業して高校も合格した。

 子どもは安心安全な場所で育てられなければならない。子どもにとって「家庭が安心安全な居場所」であるが、事情のある子どもには家庭に代わる居場所が必要である。「人は人の中で育ち変わる」からだ。