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キャラメル色の容器 小那覇涼子(生徒サポーター)<未来へいっぽにほ>


キャラメル色の容器 小那覇涼子(生徒サポーター)<未来へいっぽにほ>   小那覇 涼子
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 91歳になる母が小学校の教員をしていた頃、自宅にはさまざまな電話がかかってきた。母は一つ一つに対応してきた。

 「体育着が湿っているんですが、うちの子が風邪をひいたらどうするんですか!」

 「お母さん、おたくの子どもの頭にだけ雨は降りませんよ。みんな濡れてます。少しの雨くらいで風邪をひかないよう丈夫になさい」

 「女の子なのにスカートを着ようとしないから困っている。先生から何とか言ってください」

 「何を着ても子どもの自由。そんなに着せたかったら家中のズボンを全部捨てなさい」

 やりとりは、こんな具合である。たまには厳しい親もいて「先生、うちの子はいつもぼんやりしていて何もやる気がない。叱ってやってください」と言う。

 言われた母が観察してみると確かに朝から疲れているようで、動きはノロノロと鈍い。一転、給食となると誰よりも食欲旺盛である。でも何か違和感を抱いたのか、「この子、怠けているわけじゃないのかもしれない。気になるから病院に連れて行ってみて」となり、結果的にあの頃の小学生には珍しい小児糖尿病だったらしい。

 保護者はいたく感謝してキャラメル色をした長方形の外国製食品保存容器を持ってきた。母へのお礼のつもりだろうか、中にはパンが入っていた。

 生徒サポーターとして学校へ出入りしているが、先生方は昔も今も生徒の変化には目ざとい。愚直なのである。そして一貫して厳しく温かく、そこに存在している。

 卒業式で生徒の名前を読み上げる先生が声を詰まらせている姿をよく目にする。職業が人格を象(かたど)っていることを実感する。