卒業式を間近に控えたある日、特別支援学級の担任をされているO先生から声を掛けられた。
「お母さんにも卒業証書をあげない?」
それは毎日子どもを支援室に送り迎えしているTさんのことだった。Tさんの家庭では子どもが登校することは当たり前ではない。学校まで連れて来ても車から一歩も降りない日もある。どうにか支援室の前まで来ても「もう帰りたい」と言う。
それでも母親のTさんは叱ることはせず子どもに向き合い、気持ちを聞く。そんな親子の繰り返しを数年間見守ってこられたO先生の提案に、私も二つ返事で応えた。卒業式を待つ間、子どもから手渡された卒業証書を見て「私も卒業なんですね、もう学校に行かなくていいと思うと寂しくなります」と涙ぐまれた。
支援室を担当されているK教諭へ、と卒業する生徒たちから贈られた色紙には、「いつも私たちのことを一番に考えてくれて有り難うございました」とあった。まさしくそうである。
K先生は生徒のことを心から心配し、常に明るく励ましてきた。休日であっても様子を気にかけて連絡を入れる。その実、素顔はとてもかわいらしく、「大昔、那覇市民会館に郷ひろみを見に行ったのよ~」と遠くを眺め乙女ちっくにうっとりしている。
用務員のSさんはさりげなく気遣いがある方で、給湯室に寄った時にたわいないおしゃべりをするのが楽しかった。休憩中だろうか、文庫本をよく開いている姿にも興味を引かれた。退職されると聞いて残念に思う。
3月―。みなさまざまな思いを胸に抱き卒業する。