【記者解説】地方自治の理念崩す司法判断の本質とは…


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 私人と同様の立場だとして国が行政不服審査法を利用して地方自治体の撤回を覆すことを容認した福岡高裁那覇支部判決は、国策を推進する政府に対抗する地方自治体の防御権を奪うことにもつながりかねない。それは地方自治の本旨、理念を崩す懸念もはらみ、今後の地方自治、住民自治全般に与える影響は計り知れない。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、県の埋め立て承認撤回を取り消した国土交通相の裁決の取り消しを求めた訴訟で、福岡高裁那覇支部は県の訴えを却下した。

 判決では、国の機関が国務大臣に審査請求することが「直ちに違法ということはできない」とし、県が批判してきた「国による自作自演」を追認する判断を示した。

 辺野古新基地建設を進めるために、国の機関である沖縄防衛局が県による承認撤回を取り消すために行った審査請求に対して、内閣の一員である国交相が裁決をした。この裁決は首相の指示や閣議決定によってなされた証拠がないと指摘。国交相が「中立的判断者たる立場を放棄したということはできない」と判断した。

 しかし、安倍晋三首相が施政方針演説で辺野古移設の推進を繰り返し述べている点からも、県民の民意を無視して政府が一丸となって辺野古新基地建設を進める立場にあることは明らかだ。新基地建設ではなく、単なる沿岸の埋め立てと矮小化(わいしょうか)して見なすことは事態を直視しているとはいえない。

 安全保障が関わる国策について判断を避ける司法の体質を、改めて示した判決となった。
 (安富智希)