判決、核心に触れない 新基地建設に新たな〝お墨付き〟 辺野古関与取り消し敗訴で沖縄県、国の次ぎの焦点は…


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裁判所に入る「辺野古関与取り消し訴訟」の弁護団=23日午後、福岡高裁那覇支部

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、23日、県が国土交通相を相手に起こした関与取り消し訴訟の高裁判決が示された。政府が私人救済のための制度を使い、同じ政府機関同士で主張を認め合って県の埋め立て承認撤回を取り消した手続きについて県は違法性を訴えた。9月の口頭弁論で玉城デニー知事は原告として出廷し「国と地方の在り方が正面から問われる」と訴えたが、福岡高裁那覇支部は県の主張を退けた。県は上告する見通しで、引き続き2本の裁判が並行することになる。

 裁判で国側は、県の埋め立て承認撤回を取り消した国土交通相の裁決は地方自治法上の「国の関与」に当たらず、県の訴えがそもそも訴訟対象にならないと主張した。今回の判決は論理構成は異なるものの、結果として国の主張を認めている。判決は確定していないが、政府は新たな“お墨付き”が得られたとして工事を続行する構えだ。

■既視感

 「本件訴えを却下する」。大久保正道裁判長は判決の主文のみを述べ、理由や判断の中身を記した要旨を読み上げることはなかった。約30秒で終わった判決言い渡しに傍聴席からは「あぎじゃびよい」と失望の声が漏れた。

 言い渡しの簡素さと対照的に、判決文には裁判官の判断が詳しくつづられていた。政府が私人になりすまして行政不服審査法を使ったという手法について県は批判を重ねてきたが、その点について裁判所は初めて判断を下したことになる。県や政府の関係者の予想は「門前払い」が多数を占めており「ある意味で予想外」(県関係者)だった。

 ただ、その中身は県側にとって既視感のあるもので驚きは小さかった。法廷闘争に至る前の今年6月、県による審査申し出に対して総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」が示した判断と類似していたからだ。県が裁判で付け足した主張に触れていないとして、玉城知事は「県の主張に正面から向き合っていない」と批判した。

■全員当選

 判決言い渡しの傍聴権の抽選結果は「全員当選」と張り出された。これまで辺野古関連の訴訟は注目度が高く、2015年の代執行訴訟などでは倍率が10倍以上になることもあった。だが、今回の判決言い渡しでは傍聴希望者の数が、裁判所の用意した33席を下回った。

 裁判で県に不利な判決が続き、法廷闘争が長引くほど県民の関心を保つハードルは高くなる。玉城知事の支援団体も法廷前の集会を開くかどうか協議したが、今回は見送った。知事周辺は「(もう一方の)本丸の抗告訴訟に備えたい」と話した。肝いりの万国津梁(しんりょう)会議を巡って事業者との会食を野党から追及され、玉城知事を支援する「オール沖縄」勢力の内部からも「脇の甘さ」に批判の声がある中、玉城知事は求心力を高める手腕を問われそうだ。

■法廷外闘争

 今後は辺野古埋め立て海域の軟弱地盤改良に必要な計画変更を、政府が県に申請する時期が焦点になる。変更申請に向け、防衛省が設置した有識者による「技術検討会」では軟弱地盤改良に関する議論が進んでいる。両訴訟の判決確定待たず、同省関係者は「普天間飛行場の危険性除去を急がなければいけない」と語り、準備が整い次第、計画変更を県に申請する考えを示した。

 判決で県の主張は退けられたものの、政府関係者は「県がすんなり変更申請を承認してくれるとは思っていない」と受け止める。

 実際、県は関与取り消し訴訟の結果が確定するまで辺野古新基地建設に関連する各種申請について判断を先送りする方針を決め、辺野古新基地建設対策課が庁内の関係課に通達している。

 玉城知事は23日の会見で「当初から言っている通り対話による解決を求めつつ、取れる手だてをその都度取っていきたい」と語った。
 (明真南斗、當山幸都)