【識者評論】辺野古抗告訴訟のポイントは「国土利用の効用」 阿波連正一静岡大名誉教授


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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡って県と国の法廷闘争が本格化している。26日には抗告訴訟の第1回口頭弁論が開かれた。裁判所が実質審理に入れば、承認撤回が法的に適正かどうかが争われる。県は勝機をどこに見いだすべきか、静岡大学の阿波連正一名誉教授が本紙に寄稿した。

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 米軍基地の過重負担を抱える中、県が2018年8月31日に米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に伴う埋め立て承認を撤回した。県の埋め立て承認撤回が法にかなっているかどうかは、辺野古・大浦湾を埋め立てて普天間代替施設を建設する事業が、公有水面埋立法が定める埋め立て承認の基本要件の一つ「国土利用上適正かつ合理的なること」(1号要件)を満たすかどうかにかかっている。埋め立て承認後に発覚した事情を考慮し、その要件を欠いていると裁判で判断されれば承認撤回は許容されることになる。

 過去の最高裁判決が示しているように、1号要件の本質は「国土利用上の効用」だ。埋め立てを実施することで失われる効用が得られる効用より大きい場合、埋め立て承認が「国土利用上の阻害要因」だと判断され、承認撤回が認められる。

 承認後の重大な事情の変化として、政府が経済成長戦略で明確に観光立国を推進し、観光客が急増、観光収入が増大したことが挙げられる。この事情を考慮すれば、辺野古沿岸海域を埋め立てて普天間代替施設を建設することは屈指の観光資源、産業資源を永久に失うという「国土利用の阻害要因」となる。既存のキャンプ・シュワブも固定化され、基地の過重負担が固定化し「沖縄経済発展の阻害要因」にもなる。

 さらに、承認後に明らかになった軟弱地盤の存在で、県の試算では工事費用が当初の約2400億円から約2兆5千億円と約10倍に膨らむと予測されている。埋め立てで得られる効用はこの膨大な事業費を差し引いた分となる。

 一方、既存のシュワブや辺野古弾薬庫も返還してもらい、辺野古の海を埋め立てずに観光資源として活用すれば、基地の整理縮小と観光振興を両立できる。経済効果も大きい。

 翁長前県政が設置した承認手続きを検証する第三者委員会は、15年7月の報告書で「新基地建設より、既存の基地部分の返還を求めて自然環境の保全と両立する形で民間利用を目指す方が、国土利用上適正かつ合理的でより大きな価値を生む」と提言した。

 真珠のように美しい大浦湾・辺野古沿岸海域を埋め立て普天間飛行場の代替施設を建設することは失われる効用の方が大きい。承認は「国土利用上の効用」の観点から要件を欠いて違法で、承認撤回は許容される。理論上、県の承認撤回を取り消した国交相の裁決は違法として取り消しが認められることになる。辺野古訴訟の勝機は辺野古の海の光にある。
 (民法・環境法)