吉永小百合さんが語った沖縄、辺野古…「不公平な状況、もっと語り合うべき」インタビュー全文


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 女優・吉永小百合さん(74)が、来年1月5日に、音楽家の坂本龍一さんと共演するチャリティーコンサートを前に、沖縄への思いを熱く語った。

 松元剛琉球新報編集局長 沖縄で「詩の朗読&コンサート」を催す経緯、理由をお聞きしたい。

 「2006年に、野坂昭如さんの戦争童話集『ウミガメと少年』の朗読をやらせていただいた。私たち沖縄県外の人間が沖縄の人たちの気持ちに寄り添うことが、とても大事なことだといつも思っている。もう一度、違う形で県民の皆さんに聞いていただけたらと思っていた。坂本龍一さんにちらっと話したら、何をおいてもスケジュールを空けると言ってくれた。坂本さんは世界のいろいろな国に行っているし、一つのコンサートをつくり上げる強い力を持っている方なので、スケジュールを調整し、会場が空いていた正月明けのこの時期の開催が決まった」

「遊びに行けない」 沖縄への感情あった

 与那嶺一枝沖縄タイムス編集局長 1968年に公開された「あゝ ひめゆりの塔」に学徒役として出演され、ひめゆり平和祈念資料館にも足を運ばれた。ひめゆり学徒と、沖縄の住民が命を奪われた沖縄戦にどんな思いをお持ちか。

 「『ひめゆりの塔』という作品をいただき、当時も資料を読んだり、勉強したりしたつもりだが、いざ演じると、あまりにも気持ちが入りすぎてしまい、映画の中で泣いてばかりいた。映画を見て、あれではいけなかったのではと、すごく反省した。ひめゆり学徒の方が『当時は涙も出ないぐらい厳しい状況だった』とおっしゃっているのをテレビで見て、私の芝居は違っていたと思い、申し訳ないという感じがした」

 「(沖縄戦当時)私は生まれたばかりだったが、本当につらい思いをされ、私たち本土の人たちのために多くの方々が犠牲になった事実を知ると、(沖縄には)遊びには行けないという感情がずっとあった。戦争童話集『ウミガメと少年』のCDを出す時に、沖縄でお会いしたいろいろな方から『ふらっと遊びに来るような気持ちで来てくれる方がずっとうれしい』というお話を聞き、もっともっと沖縄に行き、いろいろなことを知り、美しい景色も見たいと思うようになった。2018年6月に(プライベートの訪問が)実現したが、海の美しさや沖縄の人たちの優しさにしっかり触れ合うことができた。同時に夜遅くに普天間基地周辺でオスプレイが飛び、辺野古の美しい海がどんどん無残な形にされていくことを何とかできないかという思いが募った」

表現者として 声に出して伝える

吉永小百合さん(右)にインタビューする琉球新報の松元剛編集局長(中央)と沖縄タイムスの与那嶺一枝編集局長=17日、東京都内のホテル(小笠原大介撮影)

 松元 1986年から33年間、ボランティアで続けてきた原爆詩の朗読について思いを聞きたい。

 「映画とテレビの作品『夢千代日記』でお母さんのおなかの中で胎内被曝した広島の女性役を演じた。そのご縁で被爆者の団体の方から詩を読んでほしいという依頼があった。原爆の子のことを書いた詩に感動し、たくさんの人に聴いてほしいと思った。もっとたくさんの方に聞いていただくにはCDを作るのが一番だと思い、広島、長崎(の朗読詩)を作り、沖縄のこともどんなことがあっても形にしたいと思っていた。悩んでいた時に野坂さんの戦争童話集に巡り合って作った。全部がつながっていた。それから10年たった2015年に(原発事故被害者の詩を朗読した)CD『第二楽章 福島への思い』を出した。自分にできることはやはり、表現者として声に出して伝えることだ。続けていきたい」

 与那嶺 沖縄戦全戦没者追悼式で読み上げられる子供たち作の「平和の詩」をこれまでの朗読会でも読まれている。どのような思いで沖縄の「平和の詩」を読んでいるか。

 「毎年6月23日(慰霊の日)にニュースを見ていて、子供たちが読む素晴らしい詩に感動する。長いのでそのまま読むことは難しいと思っていたが、今回、これまでの詩を全て取り寄せて読み、その中から4編を選んだ。長さとか条件に合うものをプログラムに入れることができた。沖縄の子供たちがしっかり未来を見つめて詩を発表していることは、とても素晴らしい」

 松元 2011年の原爆詩朗読会で「核兵器、原発がなくなってほしい」と発言された。反戦、反核、反原発について積極的に発言している理由は何か。

 「先日、来日したローマ教皇が『原発は完全に安全が保証されるまでは利用すべきではない』とおっしゃった。本当に悲惨なことが今回の地震(東日本大震災)の中で起き、原発を持つべきではないと思っている。福島原発事故後、そういう決断をした国や地域が台湾などたくさんある。オーストリアなどはチェルノブイリ事故以降、一切原子力を持たないすごい決断をした。日本も核兵器禁止条約にぜひ加入してほしいという願いが強い」

 与那嶺 芸能界の中で反原発とか反核、平和のことを発言するのは難しい面もあるだろう。一人の女性としても尊敬している。なぜ勇気を奮って活動、発言しているのか。

 「やっぱり怖いからだ。原子力は怖い。地球の終末時計が、終末の2分前とするぐらい、核兵器がたくさんある。怖いからやっぱり発言しなきゃと思う。人にどう思われようと自分の思ったことを伝えることが大事だと、私自身思っている」

首里城再建 できる限り支援したい

 松元 2月の県民投票など、7割以上の県民が反対しても、政府は辺野古新基地建設を強行している。沖縄の声が聞き入れられない状況をどう考えるか。

 「沖縄以外の東京都とかが知らんぷりしていい問題ではない。みんなの問題としてなぜこれだけ沖縄に基地がたくさんあり、70%が集中しなきゃいけないのかということをもっとみんなで言葉に出して話し合っていかなきゃいけない。どうしても基地が必要と言うなら、沖縄の痛みを他の県も引き受けないといけない。それが嫌だったら、沖縄にもつらい思いをさせてはいけない。この国に住む日本人として、今の(沖縄の)不公平な状況をどう考えるのか。もっとみんな口に出して語り合わないといけない」

 与那嶺 吉永さんが18年6月に訪ねた首里城が10月31日に焼失した。火災をいつ知り、どんな気持ちを抱いたか。

 「首里城はほとんど全域を回った。朝のニュースで火災を知り、とにかく驚いた。一度訪ねただけの人間でもすごくつらかったので、沖縄の人たちはどんな思いでいらっしゃるんだろうという気持ちになった。沖縄の方々も何としても再建するという思いを持っているし、私たちもできる限りのサポートをしたい。早い時期の再建を願っている」

沖縄のいいもの もっと見たい

 松元 吉永さんは来県した際、辺野古のゲート前の現場や埋め立て海域を見ている。今、進められている埋め立てをどう感じるか。

 「驚くほどにきれいで静かな海にヘリポートを造るのは、どういうことなのかという思いがした。座り込みにも参加するというタクシーの女性運転手の方が辺野古をいろんな角度から見せてくれた。最後は砂浜に降りて、海を歩いてみたが、(埋め立ては)本当に悲しい」

 与那嶺 121本目の出演作「最高の人生の見つけ方」の試写会で質問を受け「来年(2020年)はオリンピックもあるし、空手の形をやってみたい」と答えた。沖縄は空手発祥の地だ。空手の魅力は何か。

 「美しさと激しさの両方がある。組手はよく分からないが、女性のチャンピオンである清水希容さんの演武はきれいだ。こういう形を演じると私の演技のメリハリがつくのではないかと思う。めいっ子が黒帯を取ったので、習うところがなかったら、めいに習おうかと思っている」

 松元 県民へのメッセージを。

 「沖縄に行った時に、『戦争がなかったら、県民はみんな明るくて楽しいことが大好きだったはずだ』というお話を聞いた。本当にそうだと思うし、もっともっと私たちも沖縄のいいものを見たいと思う。いろいろなつらい状況もあるが、長寿県でもあり、沖縄の方々にいつまでも粘り強く元気でいていただきたい」

よしなが・さゆり

 1945年3月、東京都出身。1957年ラジオドラマ「赤胴鈴之助」でデビューし、59年「朝を呼ぶ口笛」で映画初出演。以後「キューポラのある街」「愛と死をみつめて」「動乱」「細雪」「天国の駅」「北の零年」「母べえ」「北のカナリアたち」「母と暮らせば」「北の桜守」など数多くの映画作品に出演し、数々の主演女優賞を受賞。「ふしぎな岬の物語」では初のプロデューサーを務める。映画出演121作目となる最新作「最高の人生の見つけ方」(ワーナーブラザース映画)が10月に公開された。86年から始めた原爆詩の朗読は30年以上続く。また2011年の東日本大震災以降は福島の詩人たち、子どもの詩も読み始める。TBSラジオ「今晩は吉永小百合です」(毎週日曜日午後10時30分)放送中。

取材を終えて
人ごとの論理ただす信念

 チャリティーコンサートに先だって実現した県紙の合同インタビューで、吉永さんは事前に質問項目を求めなかった。

 辺野古新基地や原発問題など、多くの芸能人が言及を避けるような質問をぶつけても、穏やかな表情で、核心を突く自らの言葉で答えてくれた。「人にどう思われようと、自分の思ったことを伝えることが大事だ」という信念の強さが、希代の大女優が発する凜(りん)としたオーラに内包されているように感じた。

 映画「ひめゆりの塔」に出演したことをきっかけに、吉永さんは沖縄戦の実相を深く学び、基地の重い負担を沖縄に背負わせ続けることに胸を痛め、真摯(しんし)に向き合っている。

 本土に住む国民として「どうしても基地が必要と言うなら、本土も引き受けないといけない」と話す。沖縄の現実を見て見ぬふりをする「人ごとの論理」をよしとしない誠実さを感じ、一筋の光明を見いだす思いがした。 (編集局長・松元剛)

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