『漁業と国境』 日本の領土と海、資源管理


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『漁業と国境』濱田武士、佐々木貴文著  みすず書房・3960円

 本書は2015年、東京海洋大学で開催された漁業経済学会のシンポジウム「国境漁業の現状と課題」の中心報告者、濱田武士、佐々木貴文両氏の研究成果を共著出版したものと理解している。学会としては画期的なテーマを取り上げたため、参加者には大きな刺激を与えたと思う。

 本書の要点が「国家と漁業」「外国漁船にとりまかれた日本近海」「守りの時代」「領土にからむ問題水域と漁業交渉」などの序章キーワードで明確になっている。「第一章(濱田)外洋漁業の近現代史」には、明治維新当時の小国日本が外国漁船の脅威から始まり「近代国家として漁業の近代化と領土拡張」という国力(軍事力)に支えられたことなど、これだけでも独立した一冊になろう。

 第二章以下は、外洋漁業(遠洋漁業という表記が一般的か)を水域別に北太平洋、ロシアなどの「北方水域」、韓国、北朝鮮、竹島問題等の「日本海」四章、五章で沖縄が関係する「東シナ海」、欧米や日本の統治下にあった「南洋」が整理されている。沖縄県民にとっては、「第四章(佐々木)東シナ海―失われた日本漁業の独壇場と尖閣諸島問題」が最大の関心事項となろう。佐々木の報告中「2 高まる台湾の存在感」には、日台漁業取決めの経過が、「優良漁場を台湾漁船にのみ取締りの適用除外にして―台湾漁船への漁場の切り売りによって」と台湾側に大きく譲歩したことが分かる。その対価が「沖縄漁業基金の造成」であり、実質的な補償金であったという。その際、水産庁主導で異例ながら日台漁民の操業ルールを話し合う日台漁業委員会を組織したという。その委員会に漁業者の声を反映させるために正式なメンバーとして沖縄の漁業関係者を参加させることや、専門家会合という組織も実現した、とある。

 沖縄側にも、海域管理に責任を求める姿勢と思える。日本の経済水域を守る観点から、沖縄県の担当海域を明確に設定、罰則を伴う資源管理策を具体的に主張すべき時期にきていると実感した。

(上田不二夫・沖縄大学名誉教授)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 はまだ・たけし 1969年大阪府生まれ。北海学園大学経済学部教授。著書に「漁業と震災」など多数。

 ささき・たかふみ 79年三重県生まれ。北海道大学大学院水産化学研究院准教授。著書に「漁業から見た普天間基地移設問題-襞に埋没する名護の海人」など多数。

 

漁業と国境
漁業と国境

posted with amazlet at 20.03.01
濱田 武士 佐々木 貴文
みすず書房
売り上げランキング: 31,834