『東アジアの「伝統の森」100撰』 生と死の営み 深く関わる


社会
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『東アジアの「伝統の森」100撰』薗田稔監修、李春子編著 サンライズ出版・3520円

 本書は「I 東アジアの『伝統の森』100撰」と「II 論考」の2章から成る。

 「伝統の森」とは、集落の開拓、災害と恵み、文化伝来など人間社会の「生と死」のさまざまな営みと深く関わる森のことである(李春子氏)。

 李氏はさらに、山・川・里・海は深くつながり、循環するという。その視点から水と森の普遍性を論じ、伝統の森の空間位置と祭礼を通して「敬森・敬水」を考察する。それと、同時に伝統の森と人間社会が共生する「親森・親水」の重要性についても言及する。

 第1章では、こうした視点に立って、神社・御嶽・グスク・公園・水路・マングローブなどが紹介されている。内訳は沖縄本島や宮古・八重山を含む日本の各県から70撰、さらに視野を広げて韓国20撰、台湾10撰を加えている。この選択は、いずれの事例も地域の風土に根ざしたものだからである。

 すべての事例がカラー図版として収められ、併せて所在地・由来・文化誌・森の現況についてのコンパクトな解説が添えられており、理解を助けている。

 第2章には4人の論考が収められている。2本の論考で日本や韓国の「伝統の森」文化を論じている李春子氏は、最後に「敬森・敬水」の自然観が薄れつつあることを憂い、「伝統の森」の重要性を再認識し、未来につながる実践的保全が急がれると説く。他にも大谷一弘氏、藤田和歌子氏、陳(チン)香(シャン)伊(イ)氏がそれぞれ、滋賀県、佐賀県唐津市、台湾の各事例に関する保全活動や今後の課題について報告している。

 自然災害もあるが、過剰な開発によっても世界各地の森が削られ、海や川も汚染が進んでいる。自然環境の破壊はとどまるところを知らないかのようだ。

 こうした状況に執筆者のひとり大谷氏は、次のように提言する。今日のような偏狭で実利中心から、自然に対する畏敬(いけい)の念を感じて共生するという発想への転換こそが必要である―と。まったくもって同感である。

(砂川哲雄・石垣市文化財審議会委員)

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 そのだ・みのる 京都大学名誉教授。秩父神社宮司。著書に「祭りの現象学」(弘文堂)、「神道の世界」(同)など。

 イ・チュンジャ 釜山生まれ。京都大学人間環境学・博士。著書に「八重山の御嶽」(榕樹書林)など。