『沖縄で新聞記者になる 本土出身記者たちが語る沖縄とジャーナリズム』 沖縄で生きる覚悟の物語


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『沖縄で新聞記者になる 本土出身記者たちが語る沖縄とジャーナリズム』畑仲哲雄著 ボーダー新書・1320円

 本土出身者の立場は、沖縄出身者の立場とは異なる。それは、結婚して沖縄姓になっても、うちなーぐちを習得しても変わらない。本土出身者が加害者の立場にあることは、いまだ変わらない事実である。そのような立場にある沖縄在住の本土出身記者たちが、それでも沖縄に向き合うなかで生じた葛藤の物語が、本書では紹介される。

 例えば、阿部岳記者が「本土から来てすみません」と謝罪しながら取材を行ったエピソードが登場する。しかし、そのようなことは「はた迷惑な承認欲求であり、自己満足で、甘えであった」と阿部は振り返る。本土出身者は、そこから逃げず問い続け、沈黙せずに応答するしかない。

 本書には記者たちのさまざまな葛藤の物語が登場するが、記者たちに共通するのは沖縄という場所で記者として生きることへの覚悟を決めていることだ。「泥にまみれて」取材し、記事を書くことを通じてのみ、自身の加害者性からの解放の道筋がひらける。

 沖縄への向き合い方を含めた取材のあり方について、沖縄に生きる人びとから学び、チェックを受けることが、沖縄の新聞社の核となっている。

 「沖縄戦の体験者の話を聞いたりとか、結局、沖縄の新聞社っていうのは……先輩から学ぶんじゃないんですよ……沖縄戦で、つらい思いした人から取材を学ぶんですね。(松永勝利記者)」

 筆者は大田昌秀氏が言挙げした「沖縄人の沖縄人による沖縄人のため」の沖縄のジャーナリズムは、「本土出身者がウチナーンチュと一緒に記者として働く今……すでに異なる段階にある」と述べる。しかし、それは時期尚早だと評者は考える。

 本土出身の記者は、沖縄人記者の記事を押しのけてでも掲載するに値する取材を行ったのか。沖縄人記者は現在の沖縄で汗や涙を流して生きる人びとの声を聴き逃してないか。沖縄のジャーナリズムをチェックし、育てるのは沖縄の人びとである。沖縄人のための沖縄ジャーナリズムに終わりはない。

(打越正行・社会学者)

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 はたなか・てつお 1961年大阪市生まれ。龍谷大学社会学部教授。関西大学卒後、毎日新聞社、共同通信などで勤務。東京大学大学院で2013年、博士(社会情報学)の学位取得。『地域ジャーナリズム』で第5回内川芳美記念マス・コミュニケーション学会受賞。

畑仲哲雄 著
新書判 192頁

¥1200(税抜き)