『初級 沖縄語』 「語学」としての学習意識


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『初級 沖縄語』花薗悟著、国吉朝政協力、西岡敏、仲原穣監修 研究社・2420円

 本書は、初歩の「沖縄語」の習得を目指した語学テキストである。一口に沖縄語といってもその内実はさまざまなのだが、この本では「沖縄本島の中南部で話されている言葉であり、その中でも特に首里方言をベースにしたもの」を扱っている。沖縄出身ではない著書が、「沖縄語の上達のためには自分が長年携わっている日本語教育の方法論で沖縄語の教科書を作ればいい」と思いついたのが本書誕生のきっかけとなっている(「あとがき」より)。

 日本語教育の初級テキストの多くは「文型」を積み上げていく形で構成されている。本書も、第1課の「Nヤ Nヤイビーン」(NはNです)を皮切りに、「V ンディチ ヤイビーン」(~するつもりです、第8課)、「~ネー スン」(~(する)ようだ、第19課)、「動詞のティ形+ウサギーン」(お~します(謙譲語)、第27課)などのように、易しいものから難しいものへと徐々に難易度が上がる。各課ごとに到達目標が設定され(7ページ)、文型を軸に、基本的な語彙(ごい)やいわゆる用言の活用、助詞といった沖縄語の基本を学習していく構成となっている。

 沖縄語をはじめとする琉球のことばのテキストはこれまでにも作られているが、「語学」としての学習が意識されている、と感じることのできるものは実は少ない。上に示したように、本書は日本語教育、すなわち語学教育の知見を積極的に取り入れているという特徴を持つのだが、このような試みは評者の知る限り本書が初である。練習問題も充実しており、解答は出版社のウェブサイトで入手できる。また、沖縄語ネイティブによる各課の会話音声も同じウェブサイトで聞くことができる。現代にあった配布方法である。

 琉球のことばは地域、世代によって実に多様であり、言語的な豊かさに満ちている。だが周知の通り、そのいずれもが消滅の危機に晒(さら)されている。著者も述べている通り、ことばには「これだけが正しい」というものはない。本書を「踏み台」に、琉球各地のことばの学習が進むことを期待したい。

(下地賀代子・沖縄国際大学准教授)

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 はなぞの・さとる 1967年三重県生まれ。東京外国語大学国際日本学研究院准教授。博士(言語文化学)。専門は日本語学。主な著書に姫野昌子監修『日本語表現活用辞典』、佐藤武義・前田富祺編『日本語大事典』(ともに項目執筆)など。