世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症が、これまで順調に成長してきた世界の観光産業を危機的な状況に追い込んでいる。
世界観光機関は、今年の世界における国際観光客数を、最大8割減と予想しており、影響は長期化するとみている。ハワイ州政府は、今年の観光客数は昨年の約3割程度に止まり、昨年の1千万人レベルに戻るまでには5年程度を要すると予測している。
沖縄観光も過去経験したことのない大きな打撃を受けている。沖縄観光コンベンションビューローでは、国内観光の回復は7月以降、国際観光は10月以降になるとみているが、本格回復は治療薬やワクチン普及を待たなければならない。
沖縄観光の回復に向けて大事なことは、これからの取り組みを通して、沖縄観光の基本構造を転換し、これまでの観光に“戻らない”という強い決意を持つことだ。昨年までの沖縄は、観光客の増加に伴う県民生活や自然環境への影響、県内消費額低迷、観光産業従事者の労働環境悪化などが指摘されていた。回復の過程でこうした課題解決を着実に進め、長期滞在型の質の高い観光地を目指さなければならない。
今後の具体的な強化策としては、まず、「防疫体制」の強化を図ることが重要である。
旅行に伴う移動や滞在中の「不安」を解消するための目に見える対策が急務だ。業界ごとのガイドラインや、観光客の行動動線に沿ったアクションプランを一刻も早く策定し、観光立県沖縄として安全・安心をアピールしたい。
次に、観光の「デジタル化」を加速することだ。これまでの沖縄観光は、なるべく客の近くできめ細かなサービスを提供することで満足度向上につなげる「密着型」サービスが魅力であった。今後は、感染防止を最優先とした「非接触型」サービスを提供しなければならない。既存の技術に加えて、現在、沖縄で取り組まれている「観光」×「IT」をコンセプトとしたリゾテックを加速し、観光客のニーズ対応と県内企業の生産性向上につなげたい。とはいえ、観光には“直接”五感を揺さぶる感動が必要であり、沖縄らしいホスピタリティも新たな視点で強化したい。
加えて、観光産業の「域内調達率」を高めたい。観光客に提供する食材等の域内調達率を高め、地域にお金が落ちる仕組みを構築することが重要だ。県外産や海外産に頼らず、県産品を最優先に活用する仕組みを作りたい。沖縄観光回復の一歩として、県民の県内旅行促進事業「おきなわ“彩”発見」が始まったが、宿泊施設や飲食業界には、県産品を活用した魅力あるメニュー開発をお願いしたい。
コロナ共存社会は新たなリスク共存社会であり、今後も、新たな感染症を想定しなければならない。いったん大きく落ち込んだ観光の回復は、V字ではなく非線形の波を徐々に大きくしていくイメージで臨むことが必要だ。今後は、リスクという波を乗りこなすサーフィン型対応力の強化と、危機に対応する観光危機管理基金の早期創設が不可欠だ。
(随時掲載)
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しもじ・よしろう 1957年平良市(現宮古島市)生まれ。立教大学大学院卒。81年に沖縄県庁に入庁、県香港事務所所長などを経て、2013年に琉球大学観光産業科学部教授就任。専門は国際観光、観光地ブランディング論。19年6月から沖縄観光コンベンションビューロー会長を務める。
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新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、沖縄県が出した活動自粛・休業要請は解除された。しかし、活動制限が市民生活や経済に与えた打撃は今後も続く。感染防止対策や「新しい生活様式」が働き方や人と人との接し方を変え、ひいては人々の意識を変えていく可能性がある。「コロナ禍の先に」あるものは何か。県内外の有識者に示してもらう。