<新型コロナOISTによる洞察>7 新たな日常 3密回避など防護継続を 感染源特定も重要


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ
ピーター・グルース氏

 本稿執筆時点で、新型コロナウイルス感染症(COVID19)による感染者数は、全世界で680万人を超え、39万人以上の命が奪われました。いまだに感染症終息は見えない状態です。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「これは健康上の危機だけでなく、雇用危機、人道危機、開発上の危機でもあります。

 今回のパンデミック(世界的大流行)は、私たち全員が危機に瀕(ひん)していることをあらわにしているのです」と述べ、COVID19が与えている影響について世界中の人々に注意喚起しています。

 COVID19とたたかうため、仕事面、教育面、運動、社会生活、他人への配慮など、私たちの行動は、ほとんどすべてにおいて抜本的に変更せざるを得なくなりました。人々は通常の生活、理想的には以前の生活を取り戻したいと考えています。しかしながら、5カ月の混乱を経ても状況は正常に戻っていません。今までの日常の一部は、二度と元に戻らない可能性もあります。

 免疫を提供するワクチン開発が、楽観的に見ても1年半以上先になるかもしれないことを考えると、多くの対策措置をしばらくの間続ける必要があります。どうしてそうなのかを説明しましょう。世界中で多数の感染者がいますが、COVID19に対する抗体を保有している人口が5%を超える国は今のところありません。私たちの95%は脆弱(ぜいじゃく)なままだということです。

 一部の国は他国よりはるかに良い状況です。例えば日本を例にとってみましょう。日本の感染者と犠牲者の数は、ドイツと比較してもたったの1割です。特に沖縄は幸運だったようで、ウイルス陽性患者数は、わずか142例(成田空港検疫の1人は除く。6月9日時点)とされています。

 専門家は、この低い数値を不思議に思い、理由を説明しようとしました。世界的な学術誌「サイエンス」は、自発的な社会的距離が日本を助けたことを示唆する分析を発表しました。日本は広範な検査の代わりに、感染クラスター特定に取り組み、根本的な原因を抑え込もうとし、多くの場合、クラスターの原因は、病院の他に、ジムやパブ、ナイトクラブなどの人が密集する場所であることが判明しました。

 COVID19は世界の医療に大混乱をもたらしただけではなく、記録的な貧困と失業を伴った不況を引き起こしました。各国は、人々の安全を確保しながら経済の崩壊を防ごうと努力しています。私たちは効果が実証されている対策に厳格に従う必要があります。さもなければ、感染の第二波、第三波のリスクにさらされてしまうでしょう。

 ただしこのことは、「ロックダウン(都市封鎖)」状態が永遠に終息しないという意味ではありません。現在、私たちは3密(密閉された空間、密集した環境、密接した場面)を避け、マスクを着用し、高齢者と弱い人々を守り、物理的距離と厳格な衛生状態を生活に組み込むことが強く求められています。

 PCR検査は重要な役割を担い、最も早い段階での患者の感染性ウイルスを検出します。沖縄では5月以降、新たなCOVID19の感染が出ていないことから、県内でウイルスを拡散させるリスクのある感染者がいる可能性は低いと結論づけることができます。したがってCOVID19拡大がぶり返してしまう可能性は、外部から沖縄に持ち込まれた場合に限られるということです。

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)では、沖縄県民のためのPCR検査を確立しました。ウイルスを保有もしくはウイルスを広める可能性がある旅行者を特定するために使用できます。陽性と検出された場合、接触のあった人を全て特定して隔離することが重要です。そうしなければ、「スーパー・スプレッダー(多くの人への感染源となる者)」が発生する可能性があります。この問題は、現在世界中のソフトウェア会社によって急速に開発が進んでいる接触者追跡アプリが助けになるでしょう。

 長期間にわたって規律を守り、自分自身を守り、他人を守り、国と経済を維持するため、上に述べたような条件で生活していく必要があるのです。
(OIST学長)