叔父の「戦いは終わった。外へ出ても安全」という投降呼び掛けに、知念村(現南城市知念)具志堅の小屋に隠れていた比嘉由照さん(82)=八重瀬町=ら家族は動揺します。その時、祖母のカマさんは叔父に対して、驚きの行動に出ます。叔父はカマさんの次男です。
《異様な雰囲気の中、信じがたいことが起こった。温和で柔和なまなざしで孫の私を育んでくれた祖母が、やせ細った体で、外から呼び掛ける次男へ「お前はスパイになったか。立ち去れ」と大声を発したのである。
救いに来た者への、真逆の言葉であった。それは死をかけた響きで、私は計り知れない衝撃で「まぶいうてぃ」(魂が一部抜けた状態)を起こした。》
実の息子に「スパイ」という言葉を投げつける祖母に由照さんはぼうぜんとしました。その後、叔父の懸命な説得で4人は小屋から出て、米兵に捕らわれます。
掃討戦中の米軍に対し、不慣れな住民が手りゅう弾を投げたものの爆発せず、逆に手りゅう弾を投げられ命を落とすという出来事もありました。生死は紙一重でした。
祖母の行動について由照さんは、「鬼畜米英」「軍民一体」の固定観念によるものだったと考えています。
《敬愛していた祖母があの時とった行動は、「軍民玉砕」をもくろんだデマに流された、悲しくも煽動(せんどう)に弱い人間の側面だったのかもしれない。》