【全文】中満泉国連事務次長あいさつ「今こそ軍縮への取り組み必要」(2020年6月23日慰霊の日)


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 令和2年沖縄全戦没者追悼式が挙行されるに当たり、全ての戦没者のみ霊に対し、謹んで哀悼の誠をささげますとともに、ご遺族の皆さま方に心よりお見舞い申し上げます。

 先の大戦において、ここ沖縄では、「鉄の暴風」と呼ばれるような想像を絶する激しい地上戦が行われました。美しい自然や貴重な文化遺産が容赦なく破壊され、日本・連合国双方合わせて20万人を超える尊い命が失われました。以前、家族で訪れ「平和の礎」に刻まれている全ての戦没者一人一人のお名前を拝見し、それぞれの生と死を想像して深い悲しみが心にこみ上げたことを、今日改めて思い出しています。

 昨年10月31日、偶然出張で東京におりました私は、首里城が炎につつまれ、正殿が全焼したニュースに絶句し、涙を流しました。沖縄の心のより所であった首里城を再びよみがえらせるための沖縄県民の熱意とご努力に、私は称賛の拍手を送りますとともに、再建が一刻も早く実現しますよう心から祈念いたします。

 沖縄戦が終わって間もない1945年6月26日、サンフランシスコに集まった50カ国の代表が国際連合憲章に署名し、戦後の国際平和の礎となる国際連合を設立しました。その憲章の前文にあるように、国際連合は「二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救う」ために設立され、戦後75年間、一貫して国際協調の中心として世界平和の維持と繁栄のために幅広い活動に取り組んできました。

 しかし、沖縄戦から75年たった今、大国間の緊張が高まり、新たな冷戦とも言われるほど国際安全保障環境は悪化しています。新型コロナウイルス危機、気候変動、持続可能な開発など地球規模の課題の解決に向けさらなる多国間の協調が求められる一方、国際関係は多極化・複雑化し、国際的な規範や枠組みが軽視される傾向がみられます。そして、国家間の信頼はますます弱まり、国際社会は台頭する一国至上主義の波に揺り動かされています。

 このような状況の下、今は軍縮を追求する時ではないという声を時々耳にします。しかし、冷戦期以来の悪化した安全保障環境にある今こそ、軍縮への取り組みが必要であると私たちは考えています。なぜなら、軍縮は、国家間の信頼を醸成し、対話と交渉、そして規則に基づく予測可能で安定した国際関係を維持するための重要なツールであるからです。

 今年は終戦そして国連創設75周年の重要な節目の年です。沖縄戦の犠牲者の方々が経験された想像を超える苦難を二度と繰り返さないためにも、国際社会は一丸となって国際平和と安全保障の維持に取り組まなければなりません。グテーレス事務総長をはじめ、国連で働く私たちはこの絶え間ない努力を皆さまとともに続けていく覚悟です。

 今日、私は平和のための努力に、多くの若い人たちが積極的に参加してくださるように特に呼び掛けたいと思います。彼らは、将来の地球を担い、世界に変革をもたらす究極の力です。沖縄戦の惨害を乗り越え、戦後の復興と平和の実現に命をささげてきた沖縄の皆さまの熱意と功績を若い世代に伝え、国際平和の維持と促進に努めることが、この地で亡くなった全ての方々への大切な供養ではないでしょうか。

 結びに、戦没者のみ霊の安らかならんことを心よりお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆さまのご平安を祈念致しまして、私の追悼の言葉と致します。
 令和2年6月23日
 国際連合事務次長・軍縮担当上級代表
 中満泉