高まった「安全な沖縄」 万国津梁を見直すべきなのか 藻谷浩介氏(日本総研主席研究員)<大型寄稿・コロナ禍の先へ>


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藻谷浩介氏(日本総研主席研究員)

 新型コロナウイルスの感染拡大から4カ月。6月28日現在で、県内で亡くなった方は7人だ。人口100万人あたりに直すと4・8人で、日本全国の7・7人の3分の2以下である。東京都(23人)と比べれば、5分の1だ。

 近隣国に目を転じれば、6月28日現在の死者数水準は中国が3・3人、台湾が0・3人、タイが0・8人と、沖縄よりも先に感染を抑え込んでいる。韓国は5・5人で、沖縄には及ばないが日本全国よりは良い数字だ。シンガポール4・6人、豪州4・2人、ニュージーランド4・5人は、沖縄と似たり寄ったりだ。

 他方で、県内の米国人は、いまこの島にいることを感謝すべきだろう。というのも米国での死者数は、人口100万人あたり384人。沖縄はもちろん、東アジアや東南アジアのどの国と比べても、数十倍多い水準なのである。欧州も深刻だ。優等生のドイツでも108人と沖縄の20倍以上で、英国となると656人である。付け加えれば、南アジアや西アジア、アフリカ、中南米でも、まだ感染が急拡大中の国が多い。

 しかしこの4カ月間に、沖縄経済の根幹といえる観光業の売り上げは、文字通り蒸発してしまった。これからどうしたらいいのか。“万国津梁”という戦略自体を見直すべきなのか。いや、そんなことはない。

 そもそもインバウンドは、今回の感染拡大の原因ではなかった。国立感染研究所のゲノム解析によれば、中国観光客の持ち込んだウイルスは、2月中にクラスタ対策によって制圧されていた。しかし中国から欧米に伝わって遺伝子変異したウイルスが、帰国した日本人により3月中旬に持ち込まれた。アジア蔑視と欧米追従の体質を持つ安倍政権は、アジア諸国からの入国を禁止したものの欧米からの帰国者の隔離は徹底せず、それが4月の感染者数急増を招いてしまったのである。

 ウイルスは口と口を近づけて会話しない限り感染しないので、外国人の利用する宿泊施設や公共交通機関の従業員にクラスタは発生しなかった。しかし帰国者が持ち込んだウイルスは、自宅や職場で長時間接触する家族や同僚に感染した。この理屈は、成田空港を擁する成田市や関西空港のある泉佐野市、1月に無数の中国人観光客が訪れた別府や長崎、白馬、軽井沢、ニセコなどの観光地で、ゼロもしくはごくわずかの感染者しか出なかったという事実によって裏打ちされている。

 ということなので、これからもインバウンド対応をやめる必要はない。だがパンデミック、天災、テロリズムなどに備えて、もっと平時の収益性を上げないと、ビジネスに持続可能性がない。今後は低単価で客数を増やすのはやめ、少なめの客に高単価できちんとしたサービスを提供する方向にかじを切るべきだ。

 周辺国から見た沖縄の自然と人の魅力は変わらない。感染が拡大しなかったことも、「安全な沖縄」というブランドを高めた。であればこそ、先んじて戻ってくるリピーター相手にまずはじっくりと向き合うことが、県内各地の事業者に求められる。 (随時掲載)

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 もたに・こうすけ 1964年、山口県生まれ。東京大、米コロンビア大経営大学院卒。日本開発銀行入行、政府各種審議会委員なども務めた。現在日本総合研究所主席研究員。

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 新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、沖縄県が出した活動自粛・休業要請は解除された。しかし、活動制限が市民生活や経済に与えた打撃は今後も続く。感染防止対策や「新しい生活様式」が働き方や人と人との接し方を変え、ひいては人々の意識を変えていく可能性がある。「コロナ禍の先に」あるものは何か。県内外の有識者に示してもらう。