変容し始める日米関係 辺野古中止「あり得る」 中島岳志東工大教授 <揺らぐ「辺野古唯一」識者に聞く>①


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中島岳志東工大教授

 政府が地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を断念したことを契機に、名護市辺野古の新基地建設についても見直しを求める声が改めて強まっている。異論は自民党内の防衛相経験者からも出ているものの、政府は「唯一の解決策」との立場を崩さない。米議会での国防権限法案に関する審議過程では、辺野古の現行計画への懸念も示された。一連の動きの背景などについて識者に聞いた。

 

―地上イージス配備計画断念をどう受け止めたか。

「無理筋なのは分かっていた。この計画は秋田魁新報の特報と秋田県の住民運動で火がついたのに、断念の理由は主に山口県のブースターの問題で、秋田は事実上関係ないというちぐはぐな話になった。ブースターを安全にコントロールするためミサイル開発段階と同程度の金額や期間が必要になるというが、結局は地元が犠牲を強いられることを前提に話が進んでいたということだ。住民無視の計画だった」  

 

―断念の背景をどうみる。

「防衛相の河野太郎さんは経済合理性を重視する政治家だ。競争による技術向上や規制緩和を進める新自由主義者で、脱原発の主張も環境への懸念というより、市場原理に反していることによる。米国から購入する地上イージスは高額な上にミサイルを迎撃できない可能性もあり、買い物としてペイしないという感覚はあったと思う」

「今は安倍晋三首相の力が低下し、秋の米大統領選では政権交代の可能性も出ている。日米関係の権力に若干の空白が生じているこういう状況では、思い切った決断がしやすい。河野さんが自身の存在感を示す狙いもあったのではないか」  

 

―辺野古の工事も同様にやめるべきだとの声が強まっている。

 「そうあるべきだし、その道筋を付ける一歩でもある。費用や時間の問題もあるし、有用性があるのか。過去に米国が米軍撤退を検討しても、日本側がそれを引き留めるということがさまざまな証言から明らかになっている。日米安保を基軸にした外交・防衛を戦後ずっとやってきたため、そこからの発想の転換ができていない」  

 

―日米関係の現状をどう捉えているか。  

 「地上イージス計画断念は、一度決めて進めた計画でも後戻りできることを示した。少し前なら考えられなかったことで、日米関係は変容しているということだ。日米安保こそがリアリズム(現実主義)であるとの考え方は少しずつ変わっていくが、それが全てばら色ということではない。敵基地攻撃能力の議論が浮上しているように、ローコストで攻撃性の高い防衛体制を選択することはアジアのバランスを変えることになりかねない。軍拡合戦にならないようなシフトが必要になる」

「米国が世界の警察だった時代が終わり、今はスーパーパワーなき時代だ。中国が世界を支配する段階でもなく、権力は多元化している。日本は米国一辺倒の防衛ではこの過渡期的な状況に対応できず、複雑なバランスが問われる状況にある。日米安保は今後も続くが、徐々にいびつな部分の修正が図られていく移行段階にある。そのプロセスの中で、辺野古をやめることや日米地位協定改定は選択肢としてあり得る」  ―アジアの集団安全保障の必要性を指摘している。  「かつては大西洋を中心に米国や欧州が文明の中核となったが、今はそれが太平洋側に移行し中国やロシアが台頭してきた。米国一極集中から多元化の時代になる中で、思想的なレベルで西洋的な近代をアジアから見直すことが大事だ。安全保障についても、アジア各国との信頼関係が『一帯一路』という覇権闘争を続ける中国をけん制することになる。その意味でもアジアでの集団安全保障の構築を議論していくべきだ」  (聞き手 當山幸都) (随時掲載)

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 なかじま・たけし 1975年大阪府生まれ。京都大大学院修了。現在、東京工業大リベラルアーツ研究教育院教授(近代日本政治思想史、南アジア地域研究)。著書に「中村屋のボース」「アジア主義―その先の近代へ」「自民党 価値とリスクのマトリクス」など。