ストロング系チューハイの撤退で確信…データ主義と「ドラフト刷新」<オリオン変化と改革㊥>


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リニューアル後売り上げが伸びているWATTA=県内のスーパー

 「9%やめます」―。オリオンビールが、缶酎ハイ「WATTA(ワッタ)」のストロング(アルコール度数9%)の生産を終了したことは全国で話題となった。高度数によるアルコール依存や健康への影響が問題視されてきており、「オリオンビールの英断」と評価されている。

 各社がこぞって商品を投下するストロング系酎ハイから撤退を決めた判断の裏には、県民の健康への影響を考慮したことに加え、消費者ニーズを確信した“勝算”もあった。5月の取材で早瀬京鋳社長は「私たちの調査で、ワッタが好まれている理由はアルコール度数ではない。沖縄らしさと出ている」と断言した。

 実際に、ワッタは5月のリニューアル後、売上本数は3倍に増加した。早瀬社長は「沖縄で一番売れている酎ハイと言えるのが目前に来ている」と胸を張る。

■ドラフトの刷新

 徹底したマーケティングに基づく戦略は、新たな経営体制になったオリオンビールの大きな特徴だ。看板商品「ザ・ドラフト」のリニューアルもそうだ。

 リニューアル前、オリオンビールは消費者調査によって衝撃的な事実を突きつけられていた。県民は商品名を隠して飲むとドラフトに高評価を付けるのに、商品名を出すとドラフトの評価が下がったのだ。

 県民がオリオンドラフトという銘柄を積極的に選ぶようにするために出した答えが、沖縄でしか造れないビールの徹底だった。原材料に伊江島産大麦を使い、すっきりした飲み心地はそのままに、後味に澄んだうまみが残るようにした。

 「オリオンビールはベンチャー企業」と早瀬社長は何度も口にする。挑戦するという組織風土をつくるために人事評価も変えた。

 全役員が丸1日かけて、社員一人一人について実績や今後のキャリア形成の方向性を話し合い、人事に反映させた。その結果、20~30代の若手が多数昇進した。昇進者についてその理由を全社員向けにオンラインで説明し、当該社員は決意表明した。社員の要望で最も多かった「人事評価制度の透明性」に応えた。

■3月期決算未発表

 「透明性」と対極の変化もある。

 19年3月の株式買収成立で、野村キャピタル・パートナーズと米投資ファンド・カーライルが出資する特定目的会社がオリオン株の100%を保有。株主総会も書面決議で済むようになるなど、経営は親会社の完全な支配下にある。

 オリオンビールは28日時点で、2020年3月期決算を発表していない。非上場企業に決算開示は義務付けられていないが、県内主要企業は非上場でもマスコミを通じて業績を公表している。買収前のオリオンビールも昨年までは毎年、決算を発表してきた。

 さらにオリオンビールは復帰特別措置法で酒税軽減の優遇措置を受けており、他の企業よりも経営状況に公益性を帯びる。

 早瀬社長は「数週間中に決算は発表する。新型コロナの影響もあるので、人を集めていいのかやり方を検討している。最終調整に入っている」と釈明する。だが、例年決算を発表していた6月は県内のコロナ感染者はゼロが続いていただけに、現時点までの未発表は経営数値の外部公開に消極的なことがうかがえる。

 県内の経済関係者は「短期的に企業価値を上げ、投資家にどう利益還元するのかが彼らの仕事だ。懐事情を見られて、揚げ足を取られる可能性がある決算の公表はする必要がないという考え方だろう。沖縄のリーディングカンパニーとしての評価には疑問符が付く」と厳しい視線を向ける。

(玉城江梨子)

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