若者は政治に無関心―。投票率の低さゆえに、さまざまなメディアで語られてきたが、それは本当か。若者たちは政治をどう考えているのか。琉球大学人文学部政治過程論研究室の久保慶明准教授の講義「政策科学・政治学特殊講義」では、6月7日に投開票された県議選における若者の社会や政治への意識を調べた。そこから見えた意外な結果とは…
(田吹遥子)
“リアル”が知りたくて
調査を提案した久保准教授が、県議選で若者対象の調査を考えたのには主に二つの理由があった。県議選に対する関心。「国政選挙や知事選などに比べると、県議選などの地方選挙は候補者が多く、有権者から見ると分かりにくいところがある。二項対立にならない分、どういう結果になるのか、気になっていた」(久保さん)。
もう一つは「若者の姿を知りたい」ということ。「<若者は政治に無関心>だったり、<意外と関心がある>だったり、(政治と若者の文脈で)『若者』という言葉が都合よく、印象論で使われていると思うことがあった」と久保さん。「沖縄の若い有権者の姿を、リアルを知りたいという気持ちがありました」
調査対象は沖縄県在住の18歳から24歳まで。6月7日午後8時から12日午後8時までの期間で、オンライン調査を実施した。講座受講者11人と久保准教授が友人や知人に呼び掛け、二次的な拡散も依頼し586人が回答した。そのうち県内在住の570人を集計の対象とした。サンプルの限界を踏まえ、調査結果は「沖縄の若い有権者を代表するとは言えない。あくまでも調査に回答を寄せた沖縄の若い有権者の特徴」としている。
調査の質問項目は、若い有権者の①社会意識、②政治意識、③生活環境、④個人属性に分けられる。調査結果をまとめた報告書では、若者の政治に対する意識を以上の4点から多角的に把握し、投票行動とどう関係しているのかを分析している。その中から特徴的だった結果に焦点をあて、沖縄の若い有権者像を考えたい。
政治に関わりたくない若者は少ない?
沖縄の若い有権者は政治に対してどのような心理を抱いているのか。政治に対する関心について「とてもある」が17.0%、「ある程度ある」が50.7%で関心が「ある」と答えた人が半数を超える結果になった。さらに、「自分はできることなら政治とは関わり合いたくない」という政治への「忌避感」を尋ねた質問では、「あまりそう思わない」が51.4%、「そう思わない」が29.3%と8割が「関わり合いたくないとは思わない」と回答した。講座履修生のネットワークで集めた調査結果という限界はあるものの、調査からはメディアでよく語られる「政治に無関心な若者」という姿はさほど見られない。ではこの人たちのどのくらいが県議選で投票したのか。
政治に対する忌避感がなく関心がある場合は県議選で棄権した割合が17.1%と相対的に低く、投票した割合が61.2%で相対的に高かった。一方、政治に対する忌避感があり政治に対する関心がない場合は棄権した割合が高く、投票した割合が低い。この結果からは、政治への「関心」と「忌避感」が一定程度投票に影響を与えていることが分かる。
若い有権者は「自分の一票」をどう思っているのか。「選挙では大勢の人が投票するのだから、自分一人くらい投票しなくても構わないと思う」との質問では、「そう思わない」と「あまりそう思わない」が合計で7割を超えた。一方、興味深いのは政治家に対する質問。「政治家は大雑把に言って、選挙で当選したら有権者のことを考えなくなると思う」との質問には「そう思う」「ややそう思う」が7割を超えた。若い有権者は自分の一票の影響力を認識しつつも、政治家に対して不信感を持っていることが伺える。
メディアと投票の意外な関係
若い人たちはどのようにして政治に関する情報を収集しているのか。メディアごとに情報収集の頻度を聞くと、最も頻繁なのは「ネットメディア」で、「よくある」と「時々ある」の合計が87.1%だった。続いて「テレビ」が79.1%、「TwitterなどのSNS」が65.9%、「新聞」が39.6%、「YouTubeなどの動画投稿サイト」が27.4%の順となった。多くの若い有権者がネットメディアを利用することが改めて分かる結果だ。
さらに調査では、政治情報を得るメディアと政治的な会話をする相手で一定の関係性があることも分かった。新聞から情報を得る人ほど、家族や親戚と政治的な会話をする頻度が高く、SNS から情報を得る人ほど、友人と政治的な会話をする頻度が高いということだ。2つの特徴を同時にもつ人もいるが、久保さんは「この『新聞ー家族』『SNS―友人』の2つの「空間」は一定程度独立して存在している」とみる。これらの投票行動を見てみると、新聞と家族を中心とした空間では、新聞からの情報入手と家族との政治的会話の頻度が高いと、投票する割合も高い傾向にあるが、SNS と友人を中心とした空間では、友人との政治的会話と投票は関連するものの、SNSでの情報入手と投票行動は関係しなかった。
新聞からの情報入手と家族との会話が政治参加に関連するのはなぜか。今回の調査では、専門的に政治を学んだ経験がある人が、経験がない人と比べて正しい知識を保有する割合が高いことが分かった。さらに、新聞から情報を入手し家族と会話する場合、政治を専門的に学んだ経験がある割合が高かった。以上の結果から、久保さんは「新聞からの情報入手、家族間の会話、専門的な学習経験、政治知識の定着があいまって政治参加につながっていることを示唆している」と指摘する。
若い有権者が政治情報を入手するメディアと投票時に重視するものにも一定の関係性がみられた。新聞の利用頻度が高い人は現住所や出身地を重視し、テレビの利用頻度が高い人は家族や知人からの推薦を重視、ネットメディアや SNS の利用頻度が高い人は過去の実績や経歴を重視する傾向が出た。この結果について久保さんは「沖縄では地元紙が多く読まれており、新聞利用者が地域性を重視しているように見える。SNSは新聞に比べて情報の発信者が多様で「口コミ」のような役割を担っているように見える」と分析する。
投票意欲は1日してならず…
政治参加の経験と投票行動との関係もまとめている。その結果、過去 に投票経験がある人とない人を比べると投票経験がない人の方が県議選で棄権した割合が高く、投票した割合は低い。県議選で投票した人と棄権した人を比べると、棄権した人の方が知事選で「必ず投票する」の割合は低い。 久保さんはこうまとめる。「過去の選挙で棄権してきた人は県議選でも棄権しやすく、県議選で棄権した人は 知事選での投票意欲も弱い。若い有権者の社会や政治に対する参加意欲は、過去の参加経験の延長線上にある」。つまり、過去の政治参加の有無が未来の投票行動に影響している、ある選挙の投票行動は過去の延長上にある―ということだ。
では、今後若い人の政治参加を促すには、どうしたらいいのか。久保さんは若い当事者だけでなく「当事者を育てていく層へのアプローチが必要」と語る。つまり「次の世代を育てているのは前の世代」で、試されているのは「若くない世代」の方だ。「政治に関わりたくない若者」は今回の調査では少なかった。「政治に関わりたくないとは思わない」という意識を「政治参加」へとつなぐには「若くない世代」がその環境作りと若い世代への呼び掛けを考えていく必要がありそうだ。