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Coccoが語る「育児」 母になると人は変わる?


この記事を書いた人 Avatar photo 大城 周子
日本の音楽シーンで異彩を放ち続けるCocco=2019年11月撮影

沖縄から大きく羽ばたき、唯一無二の輝きを放ち続けるアーティストCocco。今年8月の「終戦の日」に合わせ、祖父母の戦争体験を軸としたインタビュー記事を掲載した。

そのとき、Coccoは子育てに対する考え方についても興味深い話をしてくれた。Coccoには21歳になる息子がいる。ミュージシャンの中には、作品は自分の子と同じようなものだという人もいる。しかしCoccoは「その境地までいっていない。どこかで子どもが1人助かるとしたら自分の歌なんかいらない」と言った。初めての育児に戸惑った過去、日本のお母さんたちに向けたメッセージ。Coccoの「育児論」とは。

「分身」を生むのが嫌だった

記者には1歳の子どもがいる。インタビュー時、ふと発したその一言にCoccoは反応した。「大変ね。まだ自分でうんちもふけないものね」。笑いながら、せきを切ったように自身のことを話し始めた。

オンラインでのインタビューに応じるCocco=2020年7月29日

「私は子どもを持つことに対して『自分みたいな人間が生まれたら嫌だな』という思いがあった。自分の分身を生むのは想像を絶する。でも実際に生まれてみると、男の子というのもあったけど全く違う生き物だった」

分身なんかじゃなく、違う人格を持った存在なのだと強く感じたという。

「この人はいずれ社会に帰っていくんだなって思った。子どもは社会からの預かりもので、社会に返すまで育てさせてもらう。自分はその修行をさせてもらうんだって。こちらの意思ではコントロールできない。例えば、寝ているときに頭がへこんでしまうのでは?と心配して向きを変えても勝手に戻すから、『大きくなってから文句言わないでよ』って言っていた(笑)」

完璧じゃなくていい。イギリス生活で楽に

誰でも初めての子育ては暗闇の中を手探りするようなもの。自らのふがいなさに途方にくれ、立ち尽くした経験があるだろう。Coccoもそうだった。

「子どもを生んだらすぐお母さんになれると思っていたわけ。生んだ瞬間に『はぁかわいい~!私のリトル天使!こんなかわいい子、一生かけて守っていきます』ってコメントが出ると思っていた。でもそうじゃない。自分の母親とか、ベテランのお母さんたちはすぐに上手に抱っこしてそれが当然かのように見える。だけど、赤ちゃんはぐにゃぐにゃした生き物で、抱き方もゲップのさせ方も分からない。本当に分からないことだらけだよ」

イメージ写真

 息子を3歳まで沖縄で育て、その後数年をイギリスで過ごした。その時の経験でCoccoは「楽になった」と言う。例えば学校へ持って行く弁当。日本だと「キャラ弁」に代表されるように手の込んだ弁当が愛情表現の一つになるが、イギリスではほとんどの人が店で買ったサンドイッチをバナナと一緒に入れただけだったり、ショートパスタに塩を振りかけて終わりだったり。知人の赤ちゃんを預かった際には、日本なら着替えやミルクでいっぱいになった「マミーズバッグ」を渡しそうなものをイギリスでは「おむつは替えといたから」と手ぶらで明るく渡されたと笑って振り返る。

「それでもいいわけ。子どもにとって1番は母親が幸せなことだから」

お母さんはナイフを研いじゃいけない?

日本のお母さんは頑張りすぎ。Coccoはそんな言葉を繰り返した。

「最初からお母さんっていないよ。お母さんには『なっていく』ものだから。でも、日本では妊娠したら『お母さんの顔だね』『顔が柔らかくなったね』って。期待、期待ばかりで、そうならないといけないと思っちゃう。お母さんになった途端、ナイフは研いじゃいけないし優しくならないといけないって。それを押しつけられて、そうじゃないと『母親失格』みたいな感じになっちゃう。子どもを生んで優しい歌ばかり歌うかというとそれも違うくて。私は『けもの道』を歌ったし。いろんな感情が丸く収まるわけじゃなくて」

2000年にリリースされたシングル「けもの道」のジャケット

「けもの道」は息子が生まれた翌年、2000年にリリースした8枚目のシングルだ。重低音のギター旋律に乗せて感情を吐き出すように歌い、悲鳴のようなシャウトが響く。何かが迫ってくる息苦しささえ覚えるこの曲を、母になってすぐに作ったという。確かに世間で思い描かれる「優しくて温かな母性」とは対極にある。

自身の経験を彼女らしい飾りのない言葉で語ってくれたCocco。最後はこんな優しいメッセージで締めくくった。

「そんな急に人は変われないし、例え母性が120%になってもすぐお母さんになんてなれない。だからゆっくりでいいんだよ。一生かけてお母さんになっていけばいいの。だからこれだけは言っとくよ。お母さん、無理しないでよ!」

(大城周子)