検討案で場所の意味触れず 戦没者追悼式の会場はコロナと首相招待が主眼


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沖縄全戦没者追悼式検討案(県保護・援護課作成)

 今年6月23日の沖縄全戦没者追悼式の会場について当初、県が国立沖縄戦没者墓苑に移すとした決定を巡り、県の検討案が9日までに明らかになった。

 検討案には首相の招待と感染防止策に関する記述はあった一方、それぞれの場所の意味合いについて記していなかった。インフォームド・パブリック・プロジェクトの河村雅美代表が情報公開請求し、県保護・援護課の「令和2年沖縄全戦没者追悼式検討案」を入手した。

 沖縄戦研究者の石原昌家沖縄国際大名誉教授は「本来は考えないといけないことだが、全く検討した節が見られないことに違和感を感じる。県民の立場に立脚すれば当然、場所の意味を考えるべきだ」と指摘した。

 ■感染対策

 新型コロナウイルスの感染防止のため、県は沖縄全戦没者追悼式の会場について、従来の平和祈念公園の広場から国立沖縄戦没者墓苑への変更を決めた。玉城デニー知事が5月15日に表明した後、有識者らは「沖縄戦が住民視点で語られなくなる」と見直しを求め、玉城知事は県内の感染状況が落ち着いていることから、同29日に広場に戻すことを示した。

 公開された資料によると、県保護・援護課は4月半ばから5月半ばにかけて検討案を作成した。

 4月17日などに印刷された第1段階の検討案は(1)通常の式典広場で約5千人(2)式典広場で約100人(3)国立墓苑で23人(4)国立墓苑で15人―の4案。4月23日に印刷された第2段階は(1)を除く3案に。最終的に5月13日付けで国立墓苑で首相を招待しない案になった。(1)~(3)は首相を招待し、(4)のみ首相の招待はない。

 (2)の式典広場案は、首相が参列する場合、多くの県民が来場し、感染拡大が懸念されることをデメリットに挙げた。(3)と(4)の国立墓苑案のメリットは「感染拡大のリスクを大幅に低減できる」としている。(3)の首相を招待するデメリットは(2)と同様に、首相の参列によって公園に多くの県民の来場を懸念。(4)の首相を招待しないデメリットは「国と県が一体となって不戦の誓いと追悼の意を表すことが不十分となる」とした。

 これらの案では、感染対策と首相を呼ぶかどうかが検討の主眼に置かれていたと読み取れる。従来の広場に関する記述や意味合いは見られなかった。

 ■県民感情認識を

 追悼式会場を国立墓苑に移すとした県の発表に対し、沖縄戦研究者らは「天皇や国家のための殉国死の追認になりかねない」「場所を変えれば式の意味も変わる」などと懸念した。石原氏は県検討案に場所の意味合いについて記述がないことに「場所を変えることについて、県は議論すべきということを意識していなかったのではないか。議論もせずに決めたことに県民との乖離(かいり)を感じる」と指摘し、対話の姿勢を求めた。

 (4)にある「国と一体となって」の記述についても、石原氏は「国と県民の戦争認識や平和への考え方は異なる。県は沖縄戦体験に基づく県民感情を十分に認識していないのではないか」との見方を示した。「国と一体」の記述に関して県保護・援護課の大城清剛課長は「国と県が目的を共有するという意味で国と県が一体になるのは重要だ」と説明した。

 今回の会場変更問題を巡り、県担当課と沖縄戦研究者の認識にずれがあったことがあらわになった。追悼式の意義や目的について、県民と県の議論が求められそうだ。
 (中村万里子)