細かすぎる「沖縄あるある」…「プロパン7」けいたりんさんの動画は二度笑える【WEB限定】


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
お笑いコンビ「プロパン7」のけいたりんさんが動画で演じる「ひっこめるタイプのおじさん」

 複雑な親戚の家系を全て把握してるおばあ、法事の後でコーヒーを飲みに行くおばさん、部屋で熱唱している場面を見られたのが恥ずかしく、怒り狂う男子中学生・・・どこかで見たことがある、でもよく考えたらおかしくてくすっと笑える光景を配信する動画「沖縄あの人この人」がSNSで人気だ。配信するのは、お笑いバイアスロンで優勝した「プロパン7」のけいたりん(上原圭太)さん。一人で「あるある」の光景を再現する理由は?そこから見えた「のぞかれる」表現とは?

インタビュー取材に応じたプロパン7のけいたりんさん=25日、琉球新報社

先輩の酒の“さかな”で始めたことが・・・

 始めたのは2月のこと。お笑いコンビ「泉&やよい」の泉さんが「酒の“さかな”になる動画がほしい」と無茶ぶりしたのがきっかけだったという。
 「泉さんが津波信一さんと酒を飲む時に毎回動画を見ているそうなんですが、その時に見る動画がほしいから、何かやってと言われまして・・・」
そこで思い浮かんだのが自家製のコーレーグースを自慢するおじさんだった。
「いるじゃないですか、自分の家で作ったコーレーグースを『ほんのちょっとだけで辛くなるよ~』って勧める人。この光景なんだろうと気になっていて、(お笑いとして)出してみようとなりました」

「泉&やよい」の泉さんの要望に応えて撮影した「コーレーグースーを誇りに思っているおじさん」

 結果、撮影した泉さんの笑い声が入ってしまうほど大好評だった。「ウケないだろうなと思っていたらことのほか喜んでもらえて・・・」
 動画をけいたりんさんの個人のFacebookやツイッターなどで発信すると反響が広がった。そこから「もうどんどん(アイデアが)出てきまして・・・」。9月末時点で55作品を配信している。

どこかで見た“光景”

 動画にはおじさんに限らず、おじい、おばあ、おかー、おばさん、ねーねー、中学生、なんと飼い犬に至るまで多種多様なキャラクターが出てくる。

 修理済みのエアコンに手をかざし「冷えてますね~」と言いながら汗を拭く、これもどこかで見たことがある「親切なエアコン屋~」の動画。「子供が遠くに住んでいたら大変でしょ」と、高齢と思われる客を相手にエアコン修理以外の作業も引き受けると話していると、その家の長男が出てきて微妙な空気になるというオチだ。これも実はけいたりんさんが実家ででくわした場面だという。最後に画面外に出てきた設定になっている長男がけいたりんさんだという。

エアコンに手をかざして「冷えてますね~」と言う修理屋のおじさんを演じるけいたりんさん

 産婦人科、自練(自動車教習所)・・・旧友とどこかで一緒だったことを知り、興奮気味に「待って~」を繰り返すねーねーが出てくる「ひっちー待たすねーねー」。このネタは、けいたりんさんのツイッターのリプライ欄に提案があったものを参考にした。「この動画をツイッターにアップしたときのリプライ欄にも「待って!『待ってー』って言うよね」と書いてありました笑」

旧友との久しぶりの再会に興奮気味に「待って~」を連発する「ひっちー待たすねーねー」

 動画にはモデルがいるが、特定の誰か、というよりは、けいたりんさんがどこかでみた「光景」を再現しているという。「提案されたネタも、演じられるかどうかは僕が体験したかどうかが大きいですね」
 
 気をつけているのは、誰かを傷つける内容になっていないか。「言葉使いとか、僕が発することが誰かを傷つけるようになっていないかは注意を払っています」

のぞかれるイメージでリアリティを追求

 設定や構図も細部までこだわる。居間で寝てしまった子供を起こすお母さんを演じる「夜中のおばさん」では、床から母を見上げるローアングルから撮影している。寝っ転がって動画を視聴すると、画面を通して自分に言われていると思うほどのリアルさだ。

 法事があった家で、弔問客が誰か分からないまま接待していた様子を描いた「スーコーに議員が来た家のおばさん」では、画面の端に写る椅子に喪服の上着が掛かっていたり、扇風機が首を振っていたりと細かい演出がされている。カメラ撮影や小道具のセッティングも全てけいたりんさんが一人で担う。ここまでするのはなぜだろう。

左端の喪服の上着などの演出が細かい「スーコーに議員が来た家のおばさん」

 「台詞で長い間を空けたり、正面じゃないところから撮ったりは、舞台だと絶対にできないんですよ。動画だからできることをやろうと思ったら、リアリティを追求しようと思って」。

 舞台やテレビでは大きく張る声も、動画ではわざと声のトーンを落とし、音の向きの変化にも気をつける。画面への写り方も正面ではなく、あえて斜め後ろから後頭部を中心に写して演技をすることも。さらには、動画のテーマとは関係のない展開をあえて挟むことで、動画に続きの世界があるように見せている。「その方がより説得力が増すと思う」。そしてけいたりんさんはこう言う。「動画だと舞台のように(表現を)発するというよりも(ある場面を)のぞかれているイメージですね」

「動画だからリアリティを追求しようと思った」と語るけいたりんさん=25日、琉球新報社

 これだけ練られた構成になっているが、意外にもこの動画に台本はない。しかも1発撮りだ。朝、子供を保育園に送った後などに思いついたネタをすぐに再現しながら撮影する。「舞台用にはネタを寝かしたりするけど、動画は絞りたてのものをやってみようと思って。思いついた感覚でやっています。一度撮り直した回もありましたが、同じものはできませんでした」

沖縄以外からも「あるある」の感想が

 動画の反響はさまざまなところからあった。県内はもちろん、遠くはカナダに住む県人からも。4月からは、海外に住む県人からの要望に応え、動画をYouTubeで配信している。ちょうど、コロナ禍で沖縄への渡航はもちろんのこと、外出すらままならない状況。海外に住む県人からは「沖縄に帰った感じがする」とのコメントが寄せられたという。

「糸満のおじぃ」を演じるけいたりんさん

 刺身を食べる3歳の孫を見て「糸満ちゅやっさー」と感心するおじいを演じた「糸満のおじぃ」は、なんと仙台の人からも共感の声が届いたという。「『あるある』と言われる割にはかなりマイナーな人たちを演じているとは思う。それでもイントネーションを変えたらほかの地域でも『あるある』と共感されるものになっているみたいです」

動画とリアルで二度笑える?

 けいたりんさんのお笑いの原点は沖縄のお笑い集団「笑築過激団」だという。沖縄の言葉によるお笑いに刺激的な気づきがあった。「身の回りで見聞きする会話でやってるんだって気づいたんです。DNAというか、体から笑ってしまう感覚です。なんだこれって」。  

 その「沖縄のお笑い」をやるという思いは今回の動画にも生きている。 「舞台や動画で笑って、リアルでもそれを見つけると二度笑えるんです。身近な生活の場を笑いの視点で見てみてら、生き生きしているいろんな人がいると気づけるはず」。  ちょっとお疲れ気味のあなた、けいたりんさんの動画で日々の暮らしの中に「笑い」を見つけてみませんか。

(デジタル編集担当・田吹遥子)