【識者談話】輸入稚エビの輸出前検査に限界 廣野育生氏(東京海洋大教授・魚介類感染症学)


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廣野 育生氏

 急性肝膵臓壊死症(AHPND)の原因となるタイプのビブリオ属細菌は、日本では生息が報告されていない。国内で行われてきたクルマエビの養殖では、種苗(稚エビ)は国内生産しているため輸入感染の恐れはなかった。ただ、近年はバナメイエビの国内養殖が増え始めていて、輸入した稚エビから感染が発生するのではないかと気にしていたので、ついに来たかという印象だ。

 今回のケースでは、日本近海の自然環境で原因となる細菌の存在は確認されていないことや、仮にいたとすればもっと早く他の養殖場などでも症状が出ていたと考えられることから、タイからの輸入時に入った可能性が高いと思う。

 バナメイエビの稚エビを日本に輸出するタイやハワイでは、無病の証明書を付けることや輸出前のPCR検査(遺伝子による検査法)をしている。しかし、PCR検査は検査時点での陰性を証明するだけで、どうしても検出限界がある。菌が付着した個体が検査をくぐり抜けて、輸送ストレスや飼育環境で増殖する可能性はある。

 AHPNDの原因となる毒素は、人間には害を及ぼさない。風評被害が起きなければ、水産養殖業にもそれほど大きな影響は生じないだろう。ただ、養殖業界としては今回の件を真剣に受け止めて、例えば輸入した稚エビを養殖する場合、しばらくは排水を海に流さないことを徹底するなど、輸入感染症の起こらないような措置が求められる。
 (廣野育生、魚介類感染症学)